●こんなお話
夢の中で殺される悪夢が現実になる話。
●感想
架空の町スプリングウッド。高校生のティナ・グレイが深い眠りに落ちた瞬間、そこはもう夢ではなく、逃げ場のない地獄だった。
ぼんやりとした明かりが照らすボイラー室。蒸気と鉄の匂いが混ざり合い、壁を叩く音が遠くで響く。振り返れば、背の高い黒ずくめの人影。右手には、刃物を仕込んだ手袋が光を反射していた。悲鳴が上がり、目覚めた朝、ティナの寝間着には深い傷跡が残っていた。夢の出来事が、現実の肌を切り裂いていた。
ティナの親友ナンシー・トンプソンは、この出来事に強い不安を覚える。周囲はただの悪夢だと片づけようとするが、彼女の中では何かが確実に壊れ始めていた。眠るたびに訪れる同じ男。焼けただれた顔、赤と緑のセーター、フェドラ帽、そしてあの不気味な笑い声。
クラスでうたた寝をした瞬間、再びその男に襲われ、熱湯のパイプに触れて腕を焼かれたナンシーは、目覚めてもその火傷の跡が残っていることに気づく。夢の痛みが、現実に刻まれていく。
やがて彼女の友人たちも次々と同じ悪夢に囚われていく。夜ごと訪れる殺人鬼フレディ・クルーガー。彼は夢の中から人を殺す異形の存在として、若者たちを一人ずつ狩っていった。
ナンシーは、母マーグが何かを隠していると察する。母の告白によって、過去の事件が明かされる。かつてこの町には、子どもを次々と殺した男がいた。だが法は彼を裁けず、怒った親たちが彼を焼き殺したのだ。復讐に燃えるフレディは、今、“夢”という形で甦り、罪を子どもたちに返している。
ナンシーは戦う決意を固める。眠ることを拒み、意識を保ち、部屋中に罠を仕掛ける。現実と夢の区別が失われ、彼女の世界は次第に曖昧になっていく。
クライマックスでは、ナンシーはついにフレディを夢から現実に引きずり出す。彼女が仕掛けた罠が発動し、家の中を駆け巡り、外の警官たちに助けを求めつつ、フレディのパワーを奪い、ついにフレディを消滅させる。
夜が明け、朝靄の中でナンシーは母と共に家を出る。友人たちは生きていて迎えに来る。すべてが元に戻ったかに見えるが、車の屋根が突然閉まり、勝手に走り出す。窓を叩く影、屋根を突き破る手。夢はまだ、終わっていなかったのだ、でおしまい。
この作品の魅力は、夢と現実の境界を自由に行き来する不気味な映像世界にあります。フレディ・クルーガーが見せる様々な変化――自らの胸や指を切り落としたり、腕を不自然に伸ばして歩み寄ったりするその描写は、恐ろしいというよりどこか滑稽で、観客を惹きつけて離しません。彼のキャラクター造形は、単なる怪物というより“悪夢の象徴”として独特の魅力を放っていました。
夢の中の死が現実に影響を及ぼすという設定も非常に秀逸で、時間の流れや空間のゆがみを巧みに利用した演出が印象的でした。ベッドの中へ吸い込まれていくシーンや、天井を舞いながら血に包まれる描写など、どれも強い印象を残します。スタッフたちの創意工夫が感じられる特殊効果の連続で、今見ても古びた印象がありません。
終盤でナンシーが自ら夢に飛び込み、フレディと対峙する姿には凛とした強さを感じました。頼りにしていた父親があまりにも無力で、その対比がかえって彼女の成長を際立たせています。母親の存在にはどこか悲しさが漂い、家族というテーマも静かに滲んでいました。
全体を通して、ホラーでありながらも思春期の不安や孤独が重なり合い、単なる怪談ではない余韻が残ります。
フレディが単なる殺人鬼としてではなく、恐怖そのものの具現化として描かれていることが、この作品を時代を超えた名作にしているように感じました。
☆☆☆☆
鑑賞日:2020/06/02 DVD 2025/11/04 U-NEXT
| 監督 | ウェス・クレイヴン |
|---|---|
| 脚本 | ウェス・クレイヴン |
| 出演 | ヘザー・ランゲンカンプ |
|---|---|
| ジョン・サクソン | |
| アマンダ・ワイス | |
| ロニー・ブレイクリー | |
| ニック・コリー | |
| ジョニー・デップ | |
| チャールズ・フライシャー | |
| ロバート・イングランド |

