●こんなお話
今回は長崎で容疑者の奥さんと子どもを張り込んでいくうちに仲良くなっていく片山刑事の話。
●感想
物語の序盤は、自殺願望のゲイとの出会いや銀行強盗との戦いといった、やや本編と関係なさそうなエピソードから始まる。しかし、これらの描写を通して、主人公・片山刑事の人物像が浮き彫りになっています。情に厚くて不器用で、周囲からは煙たがられる存在だが、正義感だけは誰にも負けないという。
東京からやってきた警視庁の刑事たちの接待を任され、結果的に「ホシ(犯人)はここには来ない」と判断されて、1人の刑事と片山だけを現地に残して帰ってしまう。そんな中、ホシの妻と子どもが営む民宿を張り込み、偶然の事故から片山が海での救出活動中に意識を失い、そのまま民宿に世話になるという展開に。民宿では住み込みで働くことになり、ホシの家族と次第に心を通わせていく。
さらに、ホシの女とその娘が働く旅館でも関係を築くことになり、父親不在の家庭の中で、片山は一時的な“父親代わり”としての立場を担っていく。この部分の描写には、片山の人間味とやるせなさがにじんでいて、静かな感動がありました。
そして、ホシは刑事たちからも殺し屋からも追われている。その殺し屋というのが、なんとジェイソンばりのホッケーマスクを被ってアーチェリーで襲ってくるという、インパクト抜群な存在。あまりにも目立ちすぎる殺し屋ですが、その見た目の奇抜さとは裏腹に本気で命を狙ってくる危険な存在として描かれているのが面白いです。
物語は、ホシから奥さんに電話が入り、会いに行った先で殺し屋と遭遇し、片山と殺し屋が一騎打ちに。見事撃退し、ホシを逮捕した片山は、最後にホシが奥さんと子どもに会える時間を作ってやる。このラストの展開は、刑事としての責任と、人としての優しさが共存した片山の決断であり、静かな余韻を残します。
特に印象的だったのは、娘と交流を深めた片山が、やがて「本当の父親には敵わない」と実感しながらもホシに向き合う場面。片山が父親という存在の重みと、自分の限界を痛感するシーンは、胸が熱くなるものがありました。
アクション面では、序盤の銀行強盗との戦いや、ヤクザとの肉弾戦が盛り込まれているものの、ヤクザとの戦闘はやや盛り上がりに欠けた印象です。それでも、物語全体としては、片山刑事の哀愁と孤独、そして正義感がしっかりと描かれていました。
ラストで、片山の寂しさに重なるように流れる吉田拓郎の主題歌がまた沁みるもので。人間としての片山の痛みと優しさが音楽にのって心に残る、切なくも温かいエンディングでした。
☆☆☆
鑑賞日:2012/12/28 DVD 2024/04/22 DVD
監督 | 杉村六郎 |
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脚本 | 黒井和男 |
ちゃき克彰 | |
武田鉄矢 | |
原作 | 片山蒼 |
出演 | 武田鉄矢 |
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星由里子 | |
沢口靖子 | |
金田龍之介 | |
佐藤佑介 | |
三田明 |