映画【イップ・マン 誕生】感想(ネタバレ):伝統と革新のはざまで揺れる拳。イップ・マンの若き日々を描くアクション青春譚

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●こんなお話

 イップ・マンの若かりし日のころの話。

●感想

 映画は冒頭から一気に引き込まれる展開で幕を開ける。サモ・ハン・キンポー演じる師匠とユン・ピョウ演じる弟子の激しい一騎打ち。いきなり訪れるアクションの応酬に、否応なく観客の興奮が高まっていく。拳と拳がぶつかり合うたびに熱がこもり、まさに武術映画の醍醐味を感じさせるスタート。

 物語は、主人公イップ・マンの少年時代から始まる。まだ幼い彼が、どうやって詠春拳を身につけていくのか。その過程を楽しみに観ていると、意外にもイップ・マンは最初から非凡な才能を備えていて、周囲の大人たちに「すごい才能だ」と称えられてしまう。お祭りの場面ではチンピラ相手に圧勝。努力と才覚に恵まれた少年時代がコンパクトに描かれていて、テンポの良さが心地よい流れを作っていた。

 そして青年期に突入すると、イップ・マンを巡る人間模様もにぎやかさを増していく。お祭りで出会った副市長の娘が彼に恋心を抱き、猛アタックをしかけてくる一方で、昔なじみの幼馴染も密かに想いを寄せている。だが当のイップ・マン本人は、詠春拳に夢中で恋のさや当てにはまるで無関心。ふたりの女性の想いが空回りしていく展開が微笑ましく、どこか古き良き青春劇のような味わいがあった。

 その後、イップ・マンは香港に渡り、学問にも励む。新たな土地で出会うのが、第二の師匠となる老人。演じているのは、なんと実際のイップ・マンのご子息というのも話題のひとつ。街中でイギリス人と一戦交えてヒーローとして噂されていたイップ・マンを見かけ、自分も詠春拳の使い手だと名乗りを上げると、いきなり勝負を挑んでくる。その勢いのまま、イップ・マンを弟子にしてしまうのだから驚かされる。たぶん、誰かと話したかったのだろうという、人間味あふれる一面が妙に印象に残った。

 しかしこの新たな詠春拳のスタイルが、先輩であるユン・ピョウたちからすると邪道に映るようで、そこから軋轢が生じていく。詠春拳の本道と亜流、伝統と革新とのあいだに立たされるイップ・マン。そこに加えて恋愛模様も揺れ動き、物語は思わぬ方向へと進んでいく。特に、ユン・ピョウが墓前で「破門にすべきかどうか」と葛藤するシーンは、武術家としての誇りと人情の狭間で揺れる姿が丁寧に描かれていて、どこか感慨深い場面でした。

 ここまでは、コミカルな場面と真剣な武術の世界観がうまく混ざり合い、テンポよく楽しめる構成だったと思います。恋愛に友情、師弟関係に宗派の対立と、さまざまなテーマが明快に描かれており、それぞれの登場人物がしっかりと立っていた印象があります。

 ところが後半になると、突如として物語に割り込んでくる日本人たちの登場により、物語の軸が大きく揺れはじめます。彼らがなぜ登場し、どのような目的を持っているのかが十分に語られないまま話が進むため、やや置いてきぼりになってしまう感覚もありました。とくにイップ・マンの兄がとる行動が急展開すぎて、その心理の変化についていけず、少し戸惑いを覚える場面でもありました。

 それでも、ラストのアクションシーンでは、ユン・ピョウやイップ・マンをはじめとするキャラクターたちの見応えある戦いが連続して描かれ、格闘映画としての醍醐味は十分に味わうことができました。拳が交わるたびに技の重みが伝わってきて、最後までその臨場感を保ち続けていたのはさすがでした。

 ただ、物語の締めくくりがあまりにもあっさりと終わってしまい、観終わったあとに少し取り残されたような感覚が残ったのも事実です。100分という尺の中で詰め込まれたテーマや人間関係が、どれも中途半端に終わってしまった印象もありました。それでも、アクション映画としてのエネルギーや武術映画への愛情はしっかりと感じられる作品だったと思います。

☆☆☆

鑑賞日:2012/03/17 新宿武蔵野館

監督ハーマン・ヤウ 
脚本エリカ・リー 
リー・シン 
出演デニス・トー 
ルイス・ファン 
サモ・ハン・キンポー 
ユン・ピョウ 
クリスタル・ホアン 
ラム・シュー 
ローズ・チェン 
シュー・チャオ 
拳也 
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