映画【カード・カウンター】感想(ネタバレ):ポーカーと贖罪、静かに交差するふたりの旅

THE CARD COUNTER
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●こんなお話

 流浪のギャンブラーがかつての上官と再会してリベンジしようとする話。

●感想

 ナレーションとともにカードゲームの理論や立ち振る舞いが映像で説明されるところから始まり、ルールの分からない観客はその段階で少し置いてけぼりにされるような感覚もありつつ、静かに物語が動き出していく作品でした。主人公は各地のモーテルを巡り、部屋を真っ白な布で覆い尽くすような潔癖さを漂わせながら、日々を送っている様子が描かれます。その行動には規則とこだわりがあり、淡々とした生活の裏に何かしらの過去が隠されていることを匂わせる演出が続いていきます。

 やがて彼はカジノの世界を渡り歩く中で旧友と再会し、そこから新たにある女性と出会います。物語はこの邂逅をきっかけに、主人公の内側にある痛みや過去の記憶を徐々に浮かび上がらせていきます。講演会の会場で見かけたある男の姿を見つめる主人公。その男こそ、かつてアブグレイブ刑務所で彼の上官として、拷問を教え込んだ存在であり、彼の人生に深い傷を残した張本人でした。時折挿入される過去の回想が、それをより濃密に語っていきます。

 その会場で、ひとりの若者が主人公に声をかけてきます。彼の父親もまた、あの元上官によって酷い仕打ちを受けたという話を聞かされ、2人はある種の共犯関係になっていきます。若者は復讐を果たそうと決意しており、主人公はそれに引きずられるようにして彼と行動を共にするようになります。2人は一緒にカジノを巡りながら旅のような暮らしを始め、やがて大きなポーカー大会に出場することになります。 

 しかし、決勝戦の夜、主人公はそれまで稼いだ金を若者に渡し、母親の元に帰るよう説得します。口調は優しくもどこか命令のようで、そこには彼なりの思いや覚悟が滲んでいるように感じられました。そして自身は決勝に出場するものの、直後に若者からメッセージが届きます。上官に復讐を実行すると報告され、主人公は動揺し、試合を途中で棄権して会場を後にします。

 その後、テレビの報道で若者が上官の家に侵入し、命を落としたことを知る主人公。彼はひとりモーテルを後にし、やがてその上官の自宅へと向かいます。そこでは静かに2人が対峙し、語り合いの末、過去の因縁が結ばれ、拷問の末に命を奪ったことが仄めかされます。そして主人公は自ら警察へ通報し、刑務所での日々を過ごすことになります。彼はその生活について「悪くない」と語り、最後はかつての女性が面会に訪れ、面会室のガラス越しにそっと指を合わせる場面で物語は終わりを迎えます。

 全体を通して、ポーカーという題材を通して人間の内面や贖罪、過去の償いについて静かに描いていく作品になっており、派手さは抑えめですが、じわじわと沁みてくる空気があります。ただ、ギャンブルや軍事に関する背景知識がないと、登場人物たちの選択や心の動きを汲み取るのがやや難しく感じるかもしれません。そうした意味で、観る側の積極的な読み解きが求められるタイプの映画と感じました。

 主演のオスカー・アイザックは終始抑制のきいた演技で、抑え込んだ感情の奥にある複雑な葛藤を丁寧に表現していたと思います。彼の魅力に惹かれる方にとっては、画面に映るだけで満足できる瞬間も多いのではないかと感じました。淡々とした展開のなかに、ふとこぼれる静かな熱量のようなものを感じられる一本でした。

☆☆

鑑賞日:2023/06/24 イオンシネマ座間

監督ポール・シュレイダー 
脚本ポール・シュレイダー 
製作総指揮マーティン・スコセッシ 
出演オスカー・アイザック 
ティファニー・ハディッシュ 
タイ・シェリダン 
ウィレム・デフォー 
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