●こんなお話
進学校をキックアウトした主人公が北海道の農業高校へやってきて様々な経験をしていく話。
●感想
進学校で息苦しさを感じていた主人公が、自らの意思で農業高校へ転校するところから物語が始まります。将来の夢があるわけでもなく、父親との関係もぎこちないまま新たな生活をスタート。慣れない農作業や家畜の世話など、最初は戸惑いながらも少しずつ農業の大変さとやりがいを体感していく過程が描かれていきます。
夏休みには同級生の実家で農業バイトをすることになり、そこで牛乳をダメにしてしまう失敗を経験。落ち込みながらも、支えてくれる仲間たちの存在に救われて前を向こうとする姿が印象的でした。そんな中、仲良くなった同級生のひとりが突然退学するという展開に皆が驚き、それぞれが抱える家庭の事情や将来への不安が浮かび上がってきます。
飼育してきた動物たちが食肉として出荷されるときの気持ちや葛藤も描かれ、農業が単なる体験学習ではなく、現実に根差した生業であるという事実が伝わってきました。
物語の後半では、主人公が中心となって学園祭の開催に向けて動き出し、仲間たちと一緒に自作のばんえい競馬レース場を作り上げて実際にレースを行うという展開に。努力の成果が実を結び、学校全体が盛り上がる中でおしまい。
農業の厳しさや経済的な現実、慈善ではなく「生業」としての農業、さらにはばんえい競馬の裏側まで、一般的には触れる機会の少ないテーマにしっかり踏み込んでいて、とても見応えがありました。主人公が最初はやる気も目標もない状態から、仲間と出会い、行動し、成長していくという王道の青春ストーリーはやはり心に残ります。
仲間たちとの友情や文化祭の成功に向けた団結、親友のピンチに真剣に向き合う姿など、感情を揺さぶる場面も多く、素直に応援したくなるようなキャラクターたちが魅力的です。豚の屠殺や競走馬の成績による処分など、命を扱う現実もストレートに描かれ、農業で生活する大変さを学ぶことができる作品でした。
また、吉田恵輔監督ならではの強烈なサブキャラクターたちが物語の背後にいて、時に笑わせてくれるバランスの良さもありました。ただ、青春映画としてはよくまとまっている一方で、展開自体に目新しさは少なめ。目標のない少年が仲間やヒロインとの出会いを通して成長し、夏休みには泊まり込みで農作業をして、命の重さに悩み、仲間の経済的な問題や夢の後押しをするという展開は予想通りで、強く心を揺さぶられるほどの驚きは少なかったです。
教師たちも温かく見守ってくれていて、どこか幸福すぎる世界に感じてしまう部分も。準備や時間経過のモンタージュシーンが何度も続き、音楽の使い方も似たパターンが多かったため、後半はやや単調さを感じてしまいました。
とはいえ、全体的には非常に爽やかで好感の持てる映画でした。農業というテーマに真摯に向き合いながらも、青春映画としての魅力もきちんと持ち合わせており、多くの人が気持ちよく観られる作品だと思います。
☆☆☆
鑑賞日: 2014/03/04 試写会 2024/06/13 Hulu
監督 | 吉田恵輔 |
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脚本 | 吉田恵輔 |
高田亮 | |
原作 | 荒川弘 |
出演 | 中島健人 |
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広瀬アリス | |
市川知宏 | |
黒木華 | |
上島竜兵 | |
吹石一恵 | |
西田尚美 | |
吹越満 | |
哀川翔 | |
竹内力 | |
石橋蓮司 | |
中村獅童 |