●こんなお話
キリスト教が弾圧されてる日本で行方不明になった師匠を追いかけて日本にやってきた神父さんの地獄めぐりの話。
●感想
外国のスタッフの方が異文化を描く作品は、たびたび違和感がつきまとうものだと思ってましたが、本作はごく自然に本格的な時代劇として成立しており、非常に驚きました。外国制作でありながら、日本の歴史や文化の繊細な部分にも配慮が感じられ、違和感なく物語の世界に没入できたのは特筆すべき点です。映像のクオリティや美術の細部にも丁寧なこだわりが見受けられ、これだけでも本作が持つ魅力の一つとなっておりました。
冒頭からキリスト教徒に対する拷問の場面が容赦なく描かれていて、その重さは160分の上映時間の中で観る者の心に深く刻まれます。当時の人々がいかに過酷な状況下で生きていたのか、主人公の視点を通して身をもって体感できる作りとなっています。どのようにして人はあれほどまでに拷問に耐えられるのか、また一度は裏切りを犯しながらも再び信仰を取り戻し苦悩する姿など、人間の複雑な心情が丁寧に描かれてます。人間とは何か、信仰とは何かという根源的な問いかけが胸に迫る、まさに深遠な作品でした。
主人公がお奉行様や師匠から日本にキリスト教が根付かなかった理由を聞く場面では、「おてんとうさまが見ている」と自然に感じる心情が語られます。宗教に深い縁のない私のような者にとっても、その言葉には説得力があり、日本人の心性を巧みに表現していると感じました。このあたりの描写は特に印象的で、日本の文化と宗教観の違いを改めて考えさせられました。
ただし、ハリウッド映画らしい制約は否めず、登場人物全員が英語を話しているのはやや没入感を妨げる要素でした。劇中ではポルトガル語として扱われているとのことですが、百姓や門番までもが流暢な英語を話す姿には違和感を覚えました。また、主人公の想像や幻聴としてキリストらしき声がしばしば語りかけてくる演出は、静寂の中にある緊張感をかき消すように感じられました。
最後に主人公が信仰を捨てる決断を下す理由が「人を救うため」というものに集約されている点は、少々物足りなさを感じました。安直にすぎる結論に思えてしまい、本当に心が砕けそうなほど追い詰められた人間の苦悩をもっと深く掘り下げてほしかったと感じます。また、エピローグで信仰を完全には捨てていなかったことが示唆される展開は、キリスト教圏の視点が強く反映されているのかもしれませんが、少しだけ物語の重みが薄れる印象も受けました。
それにしても、日本を舞台にしながら日本国内で撮影できなかったという事実は、時代の制約や様々な事情があるとはいえ、やや寂しい気持ちになりました。異国の地で日本の歴史と文化を再現しようとしたスタッフの努力には敬意を表しつつも、より現地の空気を感じられる撮影環境が整えば、作品の持つ力はさらに高まったのではないかと感じます。
☆☆☆
鑑賞日: 2017/01/26 TOHOシネマズ川崎 2019/12/17 NETFLIX
監督 | マーティン・スコセッシ |
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脚本 | ジェイ・コックス |
マーティン・スコセッシ | |
原作 | 遠藤周作 |
出演 | アンドリュー・ガーフィールド |
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リーアム・ニーソン | |
アダム・ドライバー | |
キーラン・ハインズ | |
窪塚洋介 | |
浅野忠信 | |
イッセー尾形 | |
塚本晋也 | |
小松菜奈 |
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