●こんなお話
精神科医が超常現象に襲われる話。
●感想
無神論者に対して“天罰が下る”というテーマが物語の中心に据えられていることもあり、宗教的な価値観がベースにある構成になっている。観ているこちらとしては、そうした神の存在や信仰心が背景にある物語に、どう入り込んでいけばよいのか最初から少し距離を感じる展開となっている。
物語は、ある一家が不可解な現象に巻き込まれていくところから始まる。最初は主人公が精神科医として、多重人格の症状を持つ患者の診察に関わることで物語が動き出す。どうやら人格が入れ替わっているらしいのだが、観ているうちに「これは本当に多重人格なのか?」という疑念が湧いてくる。その疑問を抱いた主人公が調査を進めるうちに、次第に「別の何か」が関わっているのではと考え始め、真実を追っていく導入部は非常に面白かったです。
ただ、その“調査”の進み方が非常に地道で、派手さがあるわけでもなく、あくまで地味な聞き込みと資料探しが続いていくため、途中から少し集中力が削がれるような展開もありました。精神的な謎解きとサスペンスのはずが、やや淡々としすぎてしまっていた印象です。
物語が折り返しに入るあたりで、かつて大きな悲劇があったという村を訪れる展開になる。そこから一気に話のトーンが変わり、現実味のあるミステリーから、オカルト寄りの展開へと振り切られていく。視界に映るものすべてが“何かの兆候”であるかのように演出されていき、不安感はあるのですが、同時に「これは一体どういう方向性なのか?」と少し戸惑ってしまいました。
しかも、物語の中で一家が襲われる理由や背景があまり語られないままに、ただ次々と怪異に巻き込まれていくような展開が続き、観ている側としては感情の行き場がなくなってしまいました。なぜこの一家なのか、その理由があいまいなまま話が進むので、恐怖感よりも“置いていかれる”印象の方が強くなってしまった気がします。
終盤になると、物語はさらに突き抜けていき、もはや何でもアリのような空気になっていきます。主人公たちが追い詰められていく展開は続くのですが、それに対する説得力や納得感が追いつかず、ただ騒がしく感じてしまう時間帯もありました。監視カメラに映る黒い影や、何かの気配といったホラー的な演出も、どこかで観たことのあるような定番の要素が多く、驚きよりも“またこの感じか”という印象になってしまったのが惜しいです。
その影の正体が「音波だった」という説明が入る場面もありましたが、唐突で予兆が少なかったため、「音波…?」と呆気にとられる感覚に近く、話に入り込む余裕がなくなってしまったのも正直なところでした。もう少し丁寧に説得力を持たせた形で提示されていれば、より心に残る展開になっていたかもしれません。
とはいえ、役者陣の熱演には目を見張るものがありました。理屈よりも先に感情で語ってくるような力のある芝居が多く、特に家族を守ろうとする姿勢や、過去の出来事に向き合う真剣なまなざしには胸を打たれました。複雑なトーンの物語に対しても集中力を切らさず、真摯に演じていたように感じます。
☆☆☆
鑑賞日:2011/06/05 DVD
監督 | マンス・マーリンド |
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ビョルン・ステイン | |
脚本 | マイケル・クーニー |
出演 | ジュリアン・ムーア |
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ジョナサン・リス・マイヤーズ | |
ジェフリー・デマン | |
フランセス・コンロイ | |
ネイト・コードリー | |
ブルックリン・プルー | |
ブライアン・アンソニー・ウィルソン |