●こんなお話
B型の血液型の女子高生が追いかけれる話。
●感想
物語は、突如として「B型の人間が捕まってはいけない」という理不尽なルールが社会に課されるという設定から始まる。血液型という極めて個人的な要素が、生死を分ける基準として扱われ、B型の人々は理由もわからぬまま追われる側に転落していく。唐突でありながら、その不条理さが逆に現実の社会構造や差別のメタファーのようにも映り、観る側としては何とも言えない居心地の悪さを感じながらも、その展開に引き込まれていく。
物語の中心は、逃げるB型の若者たちと、それを機械のような無慈悲さで追い詰めていく鬼たちとのチェイスである。映像的にはスピード感があり、疾走する人々の姿やカメラワークには迫力があるものの、捕まった者に施される処刑の方法がどこか淡々としていて、衝撃的な映像でありながら感情の波を呼び起こすほどの怖さや絶望感には繋がらなかったです。頭に細い金属の器具を突き立てられるという描写も、アイデアとしてのインパクトに比して、実際の映像にはあまり深い余韻が残らない印象でした。
作中では、逃げる途中で出会う仲間や、かつて主人公たちをいじめていた女生徒が今度は自分が追われる立場となり、立場の逆転を経て心を改めていく様子など、人間関係の変化も描かれていきます。ただ、そういった展開はこれまでにも幾度となく描かれてきたようなものが多く、どこか既視感のようなものを覚えました。キャラクターたちのやり取りや感情の動きに新鮮さを見出すのはやや難しく、物語に深みを加えるほどにはならなかったように感じます。
また、主人公たちがなぜこれほどまでに身体能力が高く、逃走や戦闘に長けているのかといった説明が一切なく、ただ都合よく走り、戦えるという設定のまま物語が進んでいきます。その点がやや唐突で、物語の説得力に欠けてしまったのは否めません。もしもう少し、世界の構造や王様の思惑といった背景が丁寧に描かれていれば、この物語の狂気や理不尽さによりリアリティが宿り、観る側も深く入り込めたのではないかと思います。
全体を通して、逃げるという一点に集中した作品になっていたことは確かで、それゆえの緊張感やスピード感はあるものの、もう一歩踏み込んだ感情のうねりや、物語としての広がりを期待してしまったのも事実です。ただ、現代社会における「選別される恐怖」や「理由なき差別」といったテーマを、SF的な枠組みの中で描こうとした試みは興味深く、視点を変えて観ることでまた異なる印象を受けるかもしれません。
☆☆
鑑賞日:2012/10/19 DVD
監督 | 安里麻里 |
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脚本 | 安里麻里 |
瀧田哲郎 | |
原作 | 山田悠介 |
出演 | 荒井敦史 |
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相楽樹 | |
未来穂香 | |
前田希美 |