●こんなお話
ブラジルに渡っていた男が日本の実業家を暗殺するために来日して、彼に恨みを持つヤクザや実業家と三つ巴のバトルになっていく話。
●感想
物語は、ヤクザを殺してしまったひとりの男がブラジルへ向かうという唐突な導入から始まる。画面の中では、ヤクザの三姉妹が現れ、それぞれに強烈な個性を放ちながらも、なぜか物語の推進力にはならず、気づけば長女が出所している。そこから話はさらに加速していく。きっかけは「原発が怖いからブラジルに移住したい」という一言。現実とフィクションの境が曖昧になるような展開の中で、登場人物たちは淡々と移動し、決断し、時に叫ぶ。
並行して描かれていくのは、別の男が日本にやってくる場面。舞台は福島、かつての原発の影が色濃く残る土地。その地で拾い上げたのは銃剣。かつての戦争の記憶のようなそれを手に、男はひとりの実業家の命を狙う。場面が交互に切り替わることで、物語はひとつの流れとしてではなく、ふたつの線が折れ曲がりながら交わるように進んでいく。
この実業家というのも、戦後を生き抜いて、今やなんでも請け負う裏社会の支配者のように描かれていて、少し漫画的な、でも妙に説得力のある設定だったと思います。旧日本軍の影を背負っているかのような立ち居振る舞い。大げさではあるけれど、スクリーンの中では妙にハマっていたように思います。
全体を通して、原田眞人監督らしい短いカットの連続がテンポよく続いていきます。人物の会話もボソボソとアドリブのように進行していくので、そのぶん状況の把握が難しく、誰が今どこにいて、何をしているのかを整理するのが一度観ただけではなかなか追いつかない。登場人物の関係性も複雑で、回想が挟まれるたびに新しい背景が明かされていく構造なので、映像を見ながらも少し後ろに引いて観るような姿勢が必要になってきます。
途中で描かれる、仲間のタクシー運転手の長い回想も、情緒的というよりはむしろ説明的で、世界観を膨らませているようで逆に遠ざけているようにも感じました。日本軍の記憶、原発事故、霊的な描写まで多くのテーマが同時に並行して語られていくため、ただでさえ複雑な人物関係のなかに、さらに情報が重なっていく。観る側の集中力も試される構成です。
それでも、椎名桔平さんが銃剣を使って見せるアクションシーンは迫力があり、刃が空を裂く音と、地面を踏みしめる動きに引き込まれました。アクションの中にも身体性と時間の流れが感じられて、そこだけは一瞬、何も考えずに映像に身を預けられるひとときでした。
ただ、途中にある「チャップリンゲーム」と呼ばれるやりとりの場面は、かなりの長さで展開されていて、演じている側が楽しそうであるのは伝わるのですが、観客としては少し距離を感じてしまいました。場の空気がゆるやかであるぶん、物語の流れが一時止まっているように感じられてしまったのかもしれません。
とはいえ、原田監督の『KAMIKAZE TAXI』を彷彿とさせる世界観が通底していて、現代と過去、そして生と死のあわいを行き来するような雰囲気には、独特の魅力がある作品だったと思います。すべてを理解しようとするよりも、断片を断片のまま受け止める。そのほうが、この映画の肌ざわりには合っているのかもしれません。
☆☆
鑑賞日:2014/09/04 DVD
監督 | 原田眞人 |
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脚本 | 原田眞人 |
出演 | 椎名桔平 |
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水川あさみ | |
山本裕典 | |
土屋アンナ | |
キムラ緑子 | |
赤間麻里子 | |
堀部圭亮 | |
山路和弘 | |
でんでん | |
田中泯 | |
高嶋政宏 |