●こんなお話
兄がサイコパスなのではないかと疑心暗鬼になりながら愛憎入り混じる気持ちに悩む話。
●感想
幼い頃、川で溺れた弟ジージエを助けるよう母親が必死に叫んでいるところから始まる。兄ジーハンは水へ飛び込み、弟の命は助かるが、この出来事は兄弟の心に消えない記憶として残り続ける。
時は流れ、ジーハンは刑務所から仮釈放される。彼は将来を有望視されていたフェンシング選手だったが、試合中に対戦相手を死亡させた事件で服役していた。一方のジージエは母親と暮らしながらフェンシングを続けていたものの、思うような結果を残せず、伸び悩みを感じていた。母親はクラブ歌手として働き、新しい恋人チュアンと穏やかな生活を送ろうとしていたが、息子ジーハンの存在だけは恋人にも隠していた。
兄の仮釈放を知ったジージエは刑務所まで迎えに行くものの、結局顔を合わせることができず、その場を後にしてしまう。ジーハンは家族とは別に暮らす約束をしていたが、自ら台北へ戻り、スーパーで働きながら静かな生活を始める。
そんなある日、フェンシングクラブで練習をしていたジージエの前に、防具を身に着けたジーハンが現れる。久しぶりに再会した兄は、剣さばきや足運び、間合いの取り方などを細かく指導する。ジーハンの助言を取り入れたジージエは急速に実力を伸ばし、これまで勝てなかった相手にも勝利できるようになり、大会への出場権を獲得する。兄との距離も少しずつ縮まり、失われていた兄弟の時間を取り戻していく。
しかし母親は、二人が密かに会っていることを知ると激しく反対する。過去の事件を忘れることができず、再び家族が傷つくことを恐れていたからだった。それでもジーハンは母親の恋人チュアンの家族との食事会へ突然姿を見せる。その場にいた幼い子どもは彼を見て怯えて泣き出し、場の空気は一変する。ジーハンは、自分が今も周囲から危険な存在として見られている現実を痛感する。
大会が近づいた頃、ジーハンはフェンシングクラブを訪れ、選手と軽く剣を交えることになる。しかし試合中に相手へ怪我を負わせてしまい、その光景を見たジージエは兄に対する不信感を募らせていく。兄は本当に事故だったのか、それとも危険な衝動を抑えられない人間なのかという疑念が心を支配する。
やがてジージエは、過去に起きた死亡事故も故意だったのではないかと考え始める。さらに幼い日に自分が川で溺れた時も、兄は助ける気がなく、母親に叫ばれたから仕方なく救っただけではないかと思い込むようになる。兄への信頼は完全に揺らぎ、心の距離は再び広がってしまう。その一方で、ジージエは自分に好意を寄せる青年との交流を深め、一度は辞退を考えていた大会への出場を決意する。
迎えた大会当日、ジージエは順調に勝ち上がる。しかし会場へ姿を現したジーハンと向き合ったことで感情が抑えきれなくなり、過去の出来事はすべて故意だったのではないかと兄を責め立てる。精神的に大きく動揺したジージエは、本来の実力を発揮できないまま最後の試合に敗れてしまう。
試合後、精神的に追い詰められたジーハンはフェンシングの剣を手に暴れ始め、会場は混乱に包まれる。選手や観客は逃げ惑い、警察も出動する。その最中、ジージエはクラブで起きた怪我の事故が兄の故意ではなかったことを知り、自分が兄を誤解していた可能性に気付く。
誰もいなくなった会場で兄と向き合ったジージエは、警察がジーハンへ銃を向けて迫る姿を見る。兄を守るため、とっさに兄の剣を奪い、自ら兄へ切りつけることで警察の発砲を防ぐ。そして自分がその場で拘束され、警察に連行されていく。
護送車の中でジージエは、幼い日に川へ飛び込み、自分を迷うことなく助けてくれた兄の姿を思い出しておしまい。
兄弟の絆を描くヒューマンドラマなのか、危うい精神状態にある兄の姿を描くサスペンスなのか、その方向性が最後まで定まりきらず、作品全体の軸が見えにくい印象を受けました。
物語は、殺人事件を起こして服役した兄と、その兄を信じたい弟との関係を中心に進みます。しかし、母親がそこまで兄を拒絶する理由や、過去の事件の真相が十分に掘り下げられないため、登場人物たちの感情に共感しにくく感じました。兄が本当に危険な人物なのか、それとも周囲の偏見によって追い詰められているだけなのかという曖昧さは作品の狙いだったのかもしれませんが、その心理描写が物足りず、兄弟のすれ違いから生まれる緊張感も十分には伝わってきませんでした。
さらに、ジージエの恋愛要素が物語へ組み込まれていますが、本筋との結び付きが薄く感じられました。人物像に厚みを持たせる目的だったとしても、兄弟のドラマが十分に描き切れていない中では、焦点をぼかしてしまう結果になっていたように思います。
一方で、フェンシングを題材にした映像は見応えがありました。剣を交える緊張感や、防具越しでも伝わる選手たちの感情表現は印象的で、競技そのものをサスペンスの演出へ取り入れたアイデアは興味深かったです。終盤の大会会場で張り詰めた空気が一気に崩れていく展開も、映像の迫力という点では見応えがありました。
ただ、物語全体を振り返ると、それぞれの要素が一つにまとまり切らず、兄弟愛、家族の確執、サスペンス、恋愛という複数のテーマが並列に描かれている印象が強く残ります。終盤で兄弟の真実が明らかになる結末には余韻があるものの、そこへ至るまでの積み重ねがもう少し丁寧に描かれていれば、さらに心を揺さぶる作品になっていたと感じました。
☆☆
鑑賞日:2026/06/27 DVD
| 監督 | ネリシア・ロウ |
|---|---|
| 脚本 | ネリシア・ロウ |
| 出演 | リウ・シウフー |
|---|---|
| ツァオ・ヨウニン | |
| ディン・ニン |

