●こんなお話
深夜の映画館で観客が5本のホラー映画を見る話。
●感想
深夜の映画館にふらりと現れる主人公。人の気配もない館内で、受付もいないまま進むと、そこにいたのは映写技師ミッキー・ローク。少し不気味さを感じながらも席につき、スクリーンに映し出される5本の物語。そのどれもで、主人公自身がストーリーの中心となってしまうという構成がとてもユニークでした。
まず1本目。舞台は森の中。若者たちが集まり、キャンプでもしているのかと思えば、突如として現れた溶接マスクをかぶった男が襲いかかってくる。火炎放射器で次々と焼き払われ、阿鼻叫喚の展開に。一見すると定番のスラッシャー・ホラーのように見えますが、中盤から意外な展開を見せていきます。殺人鬼だと思っていた存在の背後に、実はもっと恐ろしい異形の存在がいた…という流れで、物語は一気にクリーチャー・ホラーへと変貌します。クモのようなエイリアンが人間の頭を真っ二つにし、その中からむき出しの脳みそが現れるといった、どこかB級感のある演出が逆に笑えてしまい、ハリウッド的な王道ホラーを楽しみたい方には特にオススメの1本でした。
2本目は、一転してサイコスリラーのような内容です。婚約者の勧めで美容整形を決意する女性が主人公。しかし、手術を担当する医師や婚約者、さらにその母親がまるで人の感情を持たないような冷酷な人物で、観ていてかなり不穏な空気が漂います。彼らの思惑の中でどんどん変わっていく主人公の姿が、ホラーというよりもむしろ社会的な恐怖に近く、人間の狂気を描いた作品として印象に残りました。
3本目では雰囲気がまたがらりと変わり、悪魔祓い系のアクションホラー。神父とシスターが、悪魔に取り憑かれた人々に立ち向かっていくという内容で、屋上からの転落シーンでは体が不自然にねじれる描写がJホラー的で怖さがありました。神父とシスターの2人が、剣を手に取り物理的に斬り合いながら悪魔と戦う様子は、やりすぎ感もありながらお祭りのような高揚感がありました。シリアスな中にどこか笑いを誘うような空気も漂っていて、こういうジャンルのミックスは観ていて楽しいものだと感じました。
4本目は、個人的に最も不思議な体験でした。病院の受付で2人の子どもを連れて待っている母親。しかし、受付の対応は冷たく、次第に周囲の様子がおかしくなっていきます。部屋が血で染まり、子どもたちの姿も見えなくなり、彼女は夢と現実の境界をさまようことに。幻覚なのか、それとも異界なのか、判断がつかないまま進んでいく映像は、観る側に不安と緊張を強く与えました。抜け出せない悪夢のような空間に囚われていく感覚は、ホラーというよりアートフィルムに近い印象もありました。
そして5本目では、目の前で両親を殺され、自らも心臓が一時停止するほどの衝撃を受けた少年が主人公。その出来事をきっかけに、彼にはこの世ならざるものが見えるようになってしまいます。霊たちに引き込まれそうになる一方で、現実では殺人鬼に狙われるという二重の恐怖にさらされるという構成が、観ていて非常にスリリングでした。母親の霊が息子をあの世に連れていこうとする場面では、哀しみと恐怖が混在し、心をざわつかせる余韻が残りました。
全体として、短編という特性から起承転結をコンパクトにまとめる必要があり、一本一本のテンポはとても良かったです。それぞれの話がしっかりと異なるジャンルに分かれており、飽きさせない構成にもなっていたと感じました。ただ、5本で120分という長さは、さすがに少し疲れてしまった部分もあり、後半にかけて集中力が切れてしまったのも事実です。それでも、多様なホラーのスタイルを1本の作品で楽しめるという点では非常に満足度の高い映画だったと思います。
☆☆☆
鑑賞日:2021/10/13 NETFLIX
監督 | ジョー・ダンテ |
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デビッド・スレイド | |
北村龍平 | |
アレハンドロ・ブルゲス | |
ミック・ギャリス |
出演 | ミッキー・ローク |
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リチャード・チェンバレン | |
アダム・ゴドリー | |
エリザベス・リーサー | |
アナベス・ギッシュ | |
サラ・エリザベス・ウィザース | |
モーリス・ベナード |