●こんなお話
田舎へ帰ってきたダンサーが男性と出会って恋に落ちて、お互い過去がもろもろわかってくる話。
●感想
舞台の上では静かな照明の中、女性が孤独を抱くように踊っていた。観客席の空気が一瞬止まったその時、客のひとりが突然立ち上がり、ナイフを手に彼女へ襲いかかる。その事件をきっかけに、女性は都会を離れ、海辺に近い町へと移り住む。
その街で、彼女は元恋人のマンションを頼りに暮らし始める。どこか現実から切り離されたような日々。酒場では酔いつぶれ、夜の街をふらつき、駅前で偶然交通事故を目撃する。街のざわめきや風の音ばかりが響き、言葉の少ない時間が続く。ある夜、道端で泥酔し寝転がっていた彼女に、ひとりの男が声をかける。「大丈夫?」と。そこから、ふたりの関係が始まる。
出会いは衝動的で、互いの傷を埋め合うように寄り添っていく。翌朝、女性は電話番号を書いた紙を手渡し、次第にふたりは共に過ごす時間を増やしていく。男は仕事の話をし、夜には電話で語り合い、やがて女性は彼の部屋で暮らすようになる。女性は見知らぬ女の幻を見て怯える。
やがてふたりは互いの過去を明かす。女性を襲った加害者は、不倫関係にあった男性の妻であったこと。男の側もまた、過去に妻を自殺で亡くしていたことを打ち明ける。
次第に男の中に潜んでいた暴力が顔を出す。嫉妬と怒りが積み重なり、女性に手を上げる。彼女は傷つきながらも、その場を離れようとはしない。彼女は、ただ静かに男の隣に座り続ける。
物語は大きな説明もなく、風の音や波の音、街のざらついた生活音の中で淡々と進みます。東京の劇場から海沿いの町へと移る構成も自然で、台詞を抑えた映像の語りが美しかったです。特に序盤の舞台シーンから、光の変化とカメラの静かな呼吸が印象的で、言葉ではなく空気で感情を伝える演出に惹かれました。
一方で、男女の出会いから慰め合い、そして傷つけ合う展開は唐突に感じる部分もありました。幽霊のような幻影が現れる場面には一瞬戸惑いを覚え、Jホラー的な表現が物語にどのような意味を持つのか、考えながら見ていました。男性が急に暴力的になる描写も、もう少し丁寧な積み上げがあればと感じました。
ただ、暴力の中でも離れられない女性の姿には、依存や愛情の複雑さが映し出されていて、理解しきれないまま心に残りました。愛する人が壊れていくのを見ながら、それでも手を離せない心情。そこには、痛みと救いの境界線が曖昧に滲んでいました。
静かで、音の少ない映画でしたが、ダンサーとしての身体の動きが美しく、彼女の踊りがそのまま心の軌跡のように思えました。物語としては好みが分かれるかもしれませんが、映像の持つ詩的な空気には惹かれるものがありました。
☆☆
鑑賞日:2022/03/27 Amazonプライム・ビデオ
| 監督 | 福山功起 |
|---|---|
| 脚本 | 港岳彦 |
| 出演 | 波岡一喜 |
|---|---|
| 千葉美裸 | |
| 小宮一葉 | |
| 舩木壱輝 | |
| Velma |


