映画【茄子 アンダルシアの夏】感想(ネタバレ):

Nasu: Summer in Andalusia
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●こんなお話

 地元で自転車レースをする選手とその兄と結婚相手とかの話。

●感想

 スペイン・アンダルシアの美しい田園風景の中、ひとりの若者が自転車をひたすら漕ぎ続ける。物語の舞台は、彼の故郷で行われているレース。主人公はプロの自転車レーサーで、地元ではちょうど兄とその婚約者の結婚式が開かれており、親戚や知人たちは、近くの道を通るレースをひと目見ようと集まってくる。

 だがその主人公には、静かな焦りがあった。スポンサーから契約を打ち切られることが決定しており、キャリアにとって厳しい局面に立たされている。レースの序盤、集団から抜け出して先頭を走るものの、仲間が転倒してしまい、サポートを失った主人公は、単独で逃げ切りを目指す展開となる。

 彼は淡々と、しかし着実にペダルを踏み続ける。広がるオリーブ畑や山並み、そして彼の苦しさを支えるかのような地元の人々の応援が、アンダルシアの風に乗って彼を包む。ときに、車に乗る監督やスポンサーとの無線越しのやりとりが入り、駆け引きの緊張感が続く中、物語は静かに、だが確実に進んでいく。

 回想の中で語られるのは、かつての恋人が兄の婚約者となっているという背景。劇中では多くを語らず一瞬の映像で描かれるため、人物関係の把握に少し時間がかかるが、その断片的な描写がかえって心情を想像させる構成にもなっていました。

 ライバルたちとの位置を競い合いながら、地元の観客の声援に後押しされてラストスパートを迎える。そんな中、主人公が見せる表情や息遣い、汗の描写が非常にリアルで、自転車レースの過酷さと集中力の高さが短い時間の中に凝縮されています。

 本作は50分ほどの中編アニメーションでありながら、自転車レースの緊張感やアンダルシアの自然の魅力を豊かに描き出していました。自転車競技に馴染みがないと、ルールや展開の把握がやや難しい面はあるかもしれませんが、それでも主人公の走りに込められた思いや風景の美しさ、そしてレースに懸ける熱量は十分に伝わってくるものだったと感じました。

 アニメーションとしての描写力や構成力も高く、空気や光の揺らぎまで細やかに描かれていて、技術的な部分でも見応えがありました。あえてすべてを説明しすぎず、登場人物たちの感情を抑制したまま描く姿勢に、映画的な余韻があった作品でした。

☆☆☆

鑑賞日:2022/05/02 NETFLIX

監督高坂希太郎 
演出高橋敦史 
脚色高坂希太郎 
原作黒田硫黄
出演(声)大泉洋 
小池栄子 
筧利夫 
平野稔 
緒方愛香 
平田広明 
坂口芳貞 
羽鳥慎一 
市川雅敏 
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