映画【モールス】感想(ネタバレ):吸血鬼少女と少年の切ない恋物語

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●こんなお話

 いじめられっ子が同じ団地に引っ越してきたヒロインと出会って、どうやらヴァンパイアなんじゃないかという話。

詳細ネタバレあらすじ

 1983年3月、ニューメキシコ州ロスアラモス。警察車両に囲まれた救急車が病院へ到着する。運び込まれたのは、顔を酸で焼かれ、身元を確認することも難しいほど大きな火傷を負った中年男性だった。刑事は男から事件について聞き出そうとするが、男はほとんど何も語らない。そして刑事が病室を離れた隙に、男は窓から飛び降りる。病室には「すまない、アビー」と書かれたメモだけが残される。

 物語は約2週間前へ戻る。ニューメキシコ州ロスアラモスで暮らす12歳の少年オーウェンは、母親と集合住宅で暮らしている。両親は離婚手続きの最中で、父親とは離れて生活している。学校では友達もおらず、ケニー、マーク、ドナルドら少年たちから執拗ないじめを受けている。

 オーウェンは学校でモールス信号について調べていたことからケニーたちに目をつけられ、トイレで囲まれる。持っていた棒で顔を殴られ、頬に傷を負うが、母親には「休み時間に転んだ」と嘘をつく。

 そんなオーウェンの前に、ある夜、裸足の少女アビーが現れる。アビーはオーウェンと同じくらいの年齢に見える少女で、中年男性のトーマスと一緒に隣の部屋へ引っ越してきたばかりだった。

 アビーは最初、「友達にはなれない」とオーウェンに告げる。それでも二人は少しずつ話をするようになる。オーウェンが学校でいじめられていることを知ったアビーは、相手にやり返すよう勧める。そして、いじめが続くなら自分が助けると約束する。

 二人は次第に親しくなり、オーウェンはアビーにモールス信号を教える。やがて二人は、隣り合った部屋の壁を指で叩きながらモールス信号で会話するようになる。オーウェンにとって、アビーは初めて心を通わせることができた相手だった。

 しかし、アビーにはオーウェンに話していない秘密があった。アビーは人間ではなく、人間の血を飲まなければ生きられない吸血鬼だった。そしてトーマスは彼女の父親ではなく、アビーのために血を集めている男性だった。

 トーマスは夜になると外へ出て、人間を襲う。相手の首から血を抜き、容器へ集めてアビーのもとへ持ち帰るのが彼の役割だった。ところが、ある夜の殺人では、トーマスが集めた血を持ち帰る途中で容器を落としてしまう。血は雪の上へ流れ、アビーの食事を用意することができなくなる。

 空腹になったアビーは自分で獲物を探し、集合住宅の近くにいた男性を襲う。アビーは男性の首に噛みついて血を飲み、トーマスがその遺体を処理する。一方、オーウェンとアビーの距離はさらに近づいていく。オーウェンはアビーに菓子を渡すが、血を食事とするアビーは普通の食べ物を受け付けず、食べた直後に吐いてしまう。それでもオーウェンを傷つけたくないため、一度は彼の渡したものを食べようとする。

 そのときアビーはオーウェンに、自分が女の子ではなかったとしても好きなのかと尋ねる。オーウェンは質問の意味を完全には理解しないまま、それでもアビーが好きだと答える。

 その頃、トーマスは再びアビーのために血を集めることになる。今度のトーマスは、若者が運転する車の後部座席に身を潜める。車内から少年を襲おうとするが、途中で別の友人が車に乗り込んできたことで計画が狂う。

 トーマスはガソリンスタンドで友人を襲い、車を奪って逃走しようとする。しかし相手に抵抗されたことで車は道路脇へ転落する。

 事故によって車内に閉じ込められたトーマスは、自分が警察に発見されれば、これまでの殺人だけでなくアビーとの関係まで明らかになると考える。そこで自分の身元を隠すため、自らの顔に酸を浴びせる。顔を大きく損傷したトーマスは病院へ搬送される。

 ニュースを知ったアビーは病院へ向かう。受付でトーマスの病室を確認すると、アビーは建物の外壁を登って病室の窓までたどり着く。トーマスは窓を開けてアビーを迎え入れる。そして、もう自分にはアビーのために血を集め続けることができないと悟り、自分の首をアビーへ差し出す。

 アビーはトーマスの血を飲む。それがトーマスからアビーへ与えられる最後の血だった。その後、トーマスは病室の窓から身を投げて死亡する。映画冒頭で病院から飛び降りた男の正体が、ここで明らかになる。病室にはアビーへの謝罪の言葉が残される。

 トーマスを失ったアビーは、これから一人で生きていかなければならなくなる。その夜、アビーはオーウェンの部屋を訪れる。オーウェンはアビーを部屋へ入れ、二人は一緒に過ごす。オーウェンはアビーに恋人になってほしいと伝え、アビーもその気持ちを受け入れる。

 翌日、オーウェンの学校では凍った川へ出かける授業が行われる。ケニーたちは再びオーウェンを追い詰める。しかし、これまで逃げていたオーウェンは金属製の棒を手にして抵抗し、ケニーの頭を殴る。ケニーは耳を大きく負傷する。

 さらに、その場所では以前アビーが襲った男性の遺体が凍った水の中から発見される。警察は一連の事件を本格的に捜査し始める。その後、オーウェンはアビーと二人きりになったとき、自分の指を切って血を出し、アビーと血を分け合おうとする。

 しかし、アビーはオーウェンの血を目の前にすると、吸血鬼としての本能を抑えられなくなる。顔つきが変化し、オーウェンの血を求めるようになる。それでもアビーはオーウェンを襲うことができず、その場から逃げる。

 その後、アビーは別の女性を襲い、血を飲む。襲われた女性は死亡せず、病院へ運ばれる。オーウェンはアビーの部屋へ行き、彼女が吸血鬼なのか問いただす。アビーは、自分が人間ではなく、血を飲まなければ生きられない存在だと認める。

 さらにオーウェンは、トーマスがアビーの父親ではなかったことを知る。アビーの部屋には古い写真があり、そこには現在とほとんど変わらない姿をしたアビーと、少年時代のトーマスが写っている。トーマスは少年の頃からアビーと一緒に暮らし、成長してからも彼女のために血を集め続けていたことが分かる。

 アビーとトーマスが長い年月を一緒に過ごしてきたことを知ったオーウェンは、アビーから距離を置こうとする。アビーはオーウェンを引き止めようとするが、最終的には彼を行かせる。

 一方、アビーに襲われた女性は病院で治療を受けている。しかし、身体には吸血鬼としての変化が始まっていた。女性は自分の腕に噛みつき、流れ出た血を飲む。そして看護師が病室のカーテンを開けると、窓から日光が差し込む。日光を浴びた女性の身体は燃え始め、そのまま死亡する。

 その夜、アビーは再びオーウェンの部屋を訪れる。アビーは中へ入れてほしいと頼む。オーウェンが「入れていいと言わなかったら?」と尋ねると、アビーは許可を得ないまま部屋へ入る。するとアビーの身体から大量の血が流れ始める。吸血鬼であるアビーは、人間に招かれずに家へ入ることができない。オーウェンは慌ててアビーを中へ入れることを許可する。するとアビーの出血は止まり、オーウェンは彼女を助ける。アビーは浴室で身体を洗い、オーウェンの母親の服を借りる。

 翌朝、殺人事件を捜査していた刑事がアビーの部屋を訪れる。刑事は室内を調べ、浴室で眠っているアビーを発見する。刑事はアビーが吸血鬼だとは知らないため、窓を覆っていた遮光材を外そうとする。オーウェンはアビーが日光に弱いことを知っているため、刑事を止めようとする。オーウェンが刑事の注意をそらした隙にアビーが目を覚ます。そして刑事に襲いかかり、首に噛みついて殺害する。オーウェンは、アビーが人間を殺す姿を目の前で見る。

 アビーはこの町に留まり続けることができないと判断し、オーウェンに別れを告げる。そして夜になるとタクシーに乗り、町を離れる。

 しかし、オーウェンには学校生活で、水泳の授業の日、ケニーと兄のジミー、マーク、ドナルドはオーウェンをプールへ連れていく。彼らは教師をプールから遠ざけるため、外にあるゴミ箱へ火をつける。教師が火を消すために外へ出た隙に、ジミーたちはオーウェンをプールへ連れていく。

 ジミーはオーウェンに、3分間水中にいられれば助けるが、できなければ目をえぐり出すと脅す。そしてオーウェンの頭を水中へ押し込み、浮かび上がれないように押さえつける。オーウェンは水中でもがき続ける。そのとき、プールの上から大きな物体が落ちてくる。

 水中から見上げたオーウェンの目の前に、ジミーの切断された頭部が落ちてくる。続いて、ケニーたちの身体の一部が次々と水中へ落ちてくる。アビーはプール施設の天窓から侵入し、オーウェンを殺そうとしていた少年たちを襲う。そして4人を殺害し、オーウェンを水中から引き上げる。プールには血が広がり、殺された少年たちの身体が残される。アビーはオーウェンを救ったあと、その場を去る。

 そして最後、オーウェンは列車に乗っている。彼の足元には大きなトランクが置かれている。そのトランクの中にはアビーが隠れている。吸血鬼であるアビーは日光を浴びることができないため、昼間はトランクの中で身を隠している。トランクの内側から音が聞こえてきてアビーとオーウェンでモールス信号を叩いておしまい。

●感想

 オリジナルのスウェーデン映画『ぼくのエリ 200歳の少女』と、かなり近い展開で物語が進むリメイク作品です。基本的なストーリーはオリジナルを踏襲していますが、マット・リーヴス監督はそこへハリウッド映画らしい分かりやすさと、パワーアップしたホラー描写を加えています。

 特に吸血鬼が人間を襲う場面は、オリジナルよりもかなり強烈になっています。アビーが獲物へ飛びかかるときの動きには、狼男を思わせる獣のような勢いがあり、少女の姿とのギャップが怖くて良かったです。可愛らしい少女が突然、人間ではない存在として襲いかかってくるので、アビーの正体がはっきりするほどホラー映画としての面白さが増していきます。

 その一方で、オリジナルにあった魅力は少し変わっています。『ぼくのエリ 200歳の少女』は、スウェーデンの寒々しい風景と、静かに雪が降り積もる街の中で、孤独な少年と吸血鬼の少女が少しずつ距離を縮めていく作品でした。

 白い雪に覆われた景色の美しさと、二人の静かな交流が組み合わさることで、ホラーでありながら非常に繊細な恋物語になっていました。

 今作では、その部分よりもホラーやサスペンスの比重が大きくなっています。オリジナルの静かな空気を期待すると少し違って感じますが、吸血鬼映画として見ると、こちらはこちらで非常に見やすい作品になっています。

 また、ハリウッド映画らしく説明がかなり増えています。吸血鬼のルールについても丁寧に描かれていて、特に原題の「LET ME IN」にもつながる「招かれなければ人間の家へ入ることができない」というルールは、実際の場面を使って分かりやすく説明されています。

 「女の子じゃなくても好き?」というアビーの台詞も印象に残ります。オリジナルでは、エリの正体や過去について観客が考える余白が大きかったのに対して、こちらは主人公たちの関係をより分かりやすく伝えようとしている印象を受けました。

 ただ、分かりやすくなったことで、オリジナルにあった謎めいた部分が薄くなったところもあります。特にトーマスとアビーの関係です。

 オリジナルでは、エリの保護者が血を求めて人間を襲い、失敗してしまう姿が描かれます。その人物とエリがどういう関係なのか、そしてオスカーが将来的に同じ立場になるのかについて、観客がいろいろと想像できる余地がありました。

 ところがリメイク版では、アビーと少年時代のトーマスが写った写真が登場します。この写真によって、トーマスがアビーと長い年月を過ごしてきたことがかなり分かりやすくなります。そのため、映画を見終わったあとに「オーウェンも将来的にはトーマスと同じような立場になるのではないか」と考えてしまいます。

 オーウェンとアビーが本当に恋人として結ばれていくのか、それともアビーが生き延びるためにオーウェンを利用する関係になるのか。リメイク版では、その未来を想像すると少し複雑な気持ちになります。

 一方で、トーマスが血を集める場面はリメイク版のほうが好きでした。特に車に忍び込むシーンは、かなりサスペンスが効いています。後部座席に身を潜めて、獲物を襲うタイミングを待つトーマスを見ていると、「このままうまくいくのか」と緊張してしまいます。

 そして計画が失敗して逃走する場面も良かったです。車内に固定されたカメラから事故を捉えることで、トーマスが逃げようとしている状況と車が激しく衝突する瞬間を同時に見せていて、迫力があります。

 そこからトーマスが自分の顔に酸を浴びせる展開につながるので、冒頭の「顔を焼かれた男」の正体が分かっていく構成も上手くできています。

 リメイク版から登場する刑事も面白い存在でした。殺人事件の真相を追いながら、少しずつアビーの周囲へ近づいていきます。こういう事件の真相に迫る刑事が登場すると、「この人はどこまで気づくのか」と期待してしまいます。そして、真相に近づいた刑事がアビーの部屋で彼女を発見する場面は、かなり好きでした。

 吸血鬼の存在を知らない刑事と、アビーの秘密を知っているオーウェン。観客だけが「そこを開けたら駄目」と分かっている状況で、刑事が遮光材を外していくため、見ている側も自然と緊張します。もちろん、その後の刑事の運命は……こういう作品で真相に迫る優しいおじさん刑事の末路としては、お約束ともいえるものでした。

 そして、この映画でも学校でのいじめはかなり強烈です。オリジナルの『ぼくのエリ 200歳の少女』でもオスカーはいじめられていましたが、リメイク版のオーウェンもかなりひどい目に遭います。殴られるだけではなく、最後にはプールで水中に押さえつけられるところまで追い込まれます。

 「これはアビーに助けてもらわないと無理だな」と思ってしまうほどで、オーウェンが気の毒になります。特にガキ大将を怒らせてはいけないということは、この映画からしっかり学ばせていただきました。

 そして、そのいじめっ子たちが最後にアビーによって襲われるプールの場面は、リメイク版のホラー描写を象徴するシーンです。オーウェンの視点では水面しか見えないのに、突然、少年の頭部が水中へ落ちてくる。その後も身体の一部が次々に落ちてきて、アビーが戻ってきたことが分かる構成になっています。

 ここはオリジナルを知っていても「来た!」と思える場面で、かなり盛り上がります。『モールス/LET ME IN』は、ストーリーそのものは『ぼくのエリ 200歳の少女』とかなり近い作品です。そのため、オリジナルを先に観ていると、次に何が起こるのか分かってしまう場面も多くあります。

 ただ、その分、マット・リーヴス監督がどこを変えて、どこをそのまま残したのかを見る楽しさがあります。

 オリジナルが雪景色の中で描く静かな恋物語だとすれば、こちらは同じ物語をよりホラーとサスペンス寄りにした作品という印象です。個人的にはオリジナルの静かな雰囲気のほうが好みですが、ハリウッド映画らしい分かりやすさと、迫力のある吸血鬼描写があります。

 そして、オリジナルをまだ観ていない人であれば、先入観なく楽しめる作品だと思います。

 少年オーウェンと吸血鬼アビーがモールス信号で会話する場面から始まる二人の関係が、最後にはアビーをトランクに隠して列車で移動するところまで変化していく。そのラストを見ていると、二人がこの先どんな関係になっていくのか、いろいろと想像してしまいます。

 オリジナルとほぼ同じ物語だからこそ楽しめる部分もあり、オリジナルとは違う方向へ強化されたホラー描写も魅力です。『ぼくのエリ 200歳の少女』を観た人は違いを探しながら、まだ観ていない人は一人の少年と吸血鬼少女の出会いを描いたホラー映画だと思います。

☆☆☆☆

鑑賞日:2012/01/12 Blu-ray 2026/08/18 DVD

監督マット・リーヴス 
脚本マット・リーヴス 
原作ヨン・アイヴィデ・リンドクヴィスト 
出演クロエ・グレース・モレッツ 
コディ・スミット=マクフィー 
リチャード・ジェンキンス 
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