●こんなお話
「タクシードライバー」で「キング・オブ・コメディ」な話。
●感想
コメディアンを目指している主人公が、街中で看板を持ってアルバイトをしている最中に少年たちに看板を奪われ、それを取り返そうとするも逆に暴行されてしまうという、シーンから始まります。
職場に戻った主人公は、上司から「看板が戻ってこなければ給料から天引きする」と通告され、絶望的な気持ちに。そんな中、同僚から「護身用に」として拳銃を手渡されます。主人公は母親と二人で慎ましく暮らしてる。
一方、街では地元の名士が市長選への出馬を表明しますが、富裕層を優遇し貧困層を切り捨てる政策姿勢に多くの市民が反発。社会の分断が浮き彫りとなる中、主人公は小児科でピエロとして慰問活動を行っていた際に、誤って拳銃を落としてしまい、子どもたちやスタッフから恐れられてしまいます。この事件を機に同僚にも裏切られ、彼の責任にされて職を失う結果に。
その後、地下鉄で3人の若い男性に絡まれた主人公は、ついに感情の糸が切れ、発作的に拳銃を使って3人を射殺してしまいます。
お笑いライブに出演した主人公は、持病である突発的に笑ってしまう神経疾患が発症し、まともに芸を披露できず、観客に冷笑されます。その様子が人気司会者のテレビ番組で取り上げられ、バカにされる形で一気に全国放送されることに。
母親が書いていた手紙から「街の名士が自分の父親である」という可能性を知った主人公は、信じる気持ちで名士の豪邸を訪問し、その息子と接触しますが冷たく追い返され、さらに名士本人からも「母親は妄想癖がある」と一蹴されてしまいます。家に戻ると、母親が病で倒れ、救急搬送される場面があり、彼女を見舞う病院で、ついに主人公は母親を殺害。
その後、見舞いに訪れた同僚も殺し、ついに人気司会者の番組への出演が決まる中で、警察から追われる身となった主人公は、地下鉄で暴動を煽り、その混乱に紛れて逃亡に成功。テレビ番組中に自らの犯行を告白し、さらに司会者に激昂して彼を射殺。その瞬間、スタジオは騒然とし、主人公は逮捕・護送へ。
しかしその途中、街中で起こっていた暴動が暴徒たちによるパトカー襲撃という形で爆発し、護送中の車が襲撃され、主人公はまるで“民衆のヒーロー”のように救出される形で歓喜の渦に包まれます。
物語は、ラストシーンで病院内の診察室のような部屋にいる主人公が医師と向かい合い、どこか悟ったような表情を浮かべておしまい。
本作は、スローモーションの演出や印象的な音楽、美しい構図の撮影、そしてニューヨークやシカゴのような都市風景の描写によって、アメコミ原作でありながら従来のアクション路線とは異なる非常にスタイリッシュかつ抒情的な仕上がりになっておりました。
ホアキン・フェニックスの狂気と悲哀を兼ね備えた名演は圧巻で、「タクシードライバー」や「キング・オブ・コメディ」など1970年代アメリカ映画への強いオマージュも随所に散りばめられており、映画ファンにはたまらない演出に満ちています。
社会からこぼれ落ちた一人の青年が、追い詰められ、そしてついには“偶像”として熱狂の中心に押し上げられていく過程は、不快でありながらもどこか哀しさと理解を誘う、非常に見応えのある2時間でした。映像、音楽、演出すべてが高水準で、個人的には何度も観たくなる一作となりました。
☆☆☆
鑑賞日: 2019/10/08 TOHOシネマズ川崎 2020/02/09 DVD 2024/10/13 NETFLIX
監督 | トッド・フィリップス |
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脚本 | トッド・フィリップス |
スコット・シルバー |
出演 | ホアキン・フェニックス |
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ロバート・デ・ニーロ | |
ザジー・ビーツ | |
フランセス・コンロイ | |
ブレット・カレン | |
マーク・マロン | |
シェー・ウィガム | |
ビル・キャンプ | |
グレン・フレシュラー | |
リー・ギル |
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