●こんなお話
映画監督ジョニー・トーを追いかけたドキュメンタリー。
●感想
香港映画界を代表する存在のひとり、ジョニー・トー監督のドキュメンタリー作品。物語は、中国本土での映画撮影の現場から始まる。慣れない環境に苛立ち、思うようにいかない状況にカメラの前で本音を漏らすジョニー・トーの姿が記録されていく。その率直な言葉のひとつひとつに、香港映画界の変遷と、個人としての苦悩がにじんでいて、始まりから強く引き込まれる。
そこから物語は、監督が率いる銀河映像の成り立ちと苦境の時代へと移っていく。設立から今日に至るまで、どのように作品を作り続けてきたかが、監督本人や長年のスタッフたちのインタビューを通して丁寧に語られていく。特に1997年ごろの香港映画の不況の中、ほとんど無給での制作が続いたという証言には胸を打たれるものがありました。あの代表作『ザ・ミッション/非情の掟』が、まさにその極限の状況の中で完成されたと聞くと、作品に込められた熱量の背景が見えてくるようでした。
「あと半年この状態が続いていたら、会社は持たなかった」という言葉も記録されていて、当時の危機感がありありと伝わってきます。予算がない中でも、脚本、演出、編集に工夫を重ね、何とか一本の映画を世に出す。その姿勢が今のジョニー・トー監督の作風や、銀河映像の作家性に直結しているのだと感じました。
物語の後半では、ジョニー・トー監督が映画制作の枠を超えて、映画界そのものを支える立場になっていることが描かれていきます。若手の育成に力を入れ、さまざまな映画祭を立ち上げ、理事や審査員としても精力的に活動する姿。香港映画界の未来を考えて、表現の場を広げていく様子には、強い使命感のようなものがにじんでいて、ただの成功者の回顧録ではないという印象を受けました。
さらには、近年の香港社会の状況にも触れながら、選挙や法の支配、民主主義といった大きなテーマを、あえて映画の中にマフィアの世界を通じて描いてみせるという手法も紹介されます。「表現をすることによって社会に関わっていく」。そうした姿勢は、香港という都市が抱える複雑さと重なって見えて、非常に心に残りました。
ジョニー・トー監督の作品を好きな方はもちろん、まだ触れたことがない方にとっても、このドキュメンタリーは銀河映像という集団の歩みを知る貴重な機会になっていると感じます。登場する作品群がひとつひとつ印象的で、観終わったあとには、あの作品もこの作品も改めて見直したくなってしまう内容でした。映画に人生を捧げたひとりの作り手の軌跡をたどる90分、深く味わわせていただきました。
☆☆☆☆
鑑賞日:2022/12/19 NETFLIX
監督 | イブ・モンマユー |
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製作 | セルゲ・ゲーズ |
出演 | ジョニー・トー |
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リッチー・レン | |
サイモン・ヤム | |
アンソニー・ウォン | |
レオン・カーフェイ | |
ルイス・クー |