●こんなお話
警察とマフィア、それぞれに潜入していてお互い情報を流しつつばれるかばれないかの話。
●感想
若者たちがマフィアのボスのもとに集められ、「警官になれ」という指示を受けて警察の道へ進んでいくという導入から物語は始まります。一方、警察側では将来有望な若手警官が突然の退学処分を受ける形で表向きに姿を消し、実は秘密裏に潜入捜査の任務を命じられていたという展開に。こうして、警察に潜入したマフィアと、マフィアに潜入した警察官が、それぞれの組織の内部で信頼を獲得しながら、表と裏の世界を交差していくスリリングな構成が展開していきます。
物語の中盤では、タイ人との麻薬取引が浮上し、警察が取引の現場を監視することに。互いに情報を漏らし合う潜入者たちが、徐々に「内通者がいる」と気づき始め、緊張感は一気に高まります。捜査の突入寸前でマフィア側が麻薬を処分し、証拠を隠滅する場面では、わずかな間に判断を迫られるスピード感と切迫感が鮮やかに描かれていました。
警察の上司もマフィアのボスも、自分たちの中に潜入者がいるという疑念を抱き始め、それぞれが自陣のスパイを炙り出すよう命令を下します。そんな中、潜入捜査官は精神的に追い詰められ、精神科医のもとでようやく眠れるようになる描写や、潜入マフィアが結婚して新生活を始めるといった日常の静けさが挿入されることで、彼らの二重生活の過酷さがより際立ちます。
物語が転がり始めるのは、潜入マフィアが潜入捜査官と警察の上司が密会している瞬間を目撃してしまう場面。その情報をマフィアのボスに報告し、結果として警察上司はマフィアたちに追いつめられ、ビルの屋上から突き落とされて命を落とすことに。そこから銃撃戦が始まり、物語は一気にクライマックスへ向かって加速していきます。
上司を失った潜入捜査官に、潜入マフィアが協力を持ちかけます。ふたりでマフィアのボスを尾行し、警官隊の突入を導いていくものの、最終的にはボスが逃走を試みたところで、潜入マフィアの手によってその命を奪われます。物語が収束に向かう中、捜査官の身元を回復させるための動きが進められますが、その矢先、彼は潜入マフィアの正体を突き止めてしまいます。そして、ボスとの通話テープを証拠に脅しをかけ、逮捕を目論む場面へと展開します。
ところが、警察の一人の部下が現れ、突如として潜入捜査官を射殺します。実はこの部下もまたマフィアの潜入者であり、最後にその部下も潜入マフィアに射殺され、全ての因縁におしまいが訪れます。潜入捜査官の身分は正式に回復し、彼の存在を記憶するかのように葬儀が執り行われて物語は締めくくられます。
マフィアに潜入する警官と、警察に潜入するマフィア。互いに正体を知らぬまま情報を巡らせ、どこかで疑い、どこかで信頼し、組織の表と裏が入り混じる構成の緊張感は秀逸でした。特にタイ人との麻薬取引の場面では、テンポの速いカットと視点の切り替えが効果的で、観る者を一気に物語へと引き込んでいきます。
潜入捜査官の苦悩や、今の偽りの身分に満足を覚えはじめてしまう葛藤、そしてそこから来る決断など、心理描写にも見どころがありました。100分という限られた尺の中で、スピードを優先したことでマフィアのボスや警察の上司にあまり重みが感じられない瞬間もありますが、それを補って余りある密度と展開の妙がありました。
ボスが残した会話テープの行方や、警察のパスワードが突破できないという描写に少しの引っかかりはあるものの、それもまた登場人物たちの中に潜む裏の動きを想像する楽しみにも繋がっていました。単なる善悪の勧善懲悪ではなく、「長く生き延びることが苦しみになる」というアンディ・ラウの台詞が全体を象徴しており、余韻のあるラストでした。観終わったあとに静かに心に残る、見応えのある作品でした。
☆☆☆☆☆
鑑賞日:2011/11/23 DVD 2023/09/06 Amazonプライム・ビデオ
監督 | アンドリュー・ラウ |
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アラン・マック | |
脚本 | アラン・マック |
フェリックス・チョン |
出演 | アンディ・ラウ |
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トニー・レオン | |
アンソニー・ウォン | |
エリック・ツァン | |
ケリー・チャン | |
サミー・チェン | |
エディソン・チャン | |
ショーン・ユー | |
エルヴァ・シャオ | |
チャップマン・トウ |