映画【春を背負って】感想(ネタバレ):美しい絶景と淡々と流れる日常、山小屋を舞台にした静かな人間ドラマ

Haru wo seotte
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●こんなお話

 東京でデイトレーダーやってた青年が父の死をきっかけに山小屋にやってきて山男として成長していく話。

●感想

 日本の四季が織りなす風景を美しく切り取った映像は、さすが標高3000メートルというだけあって圧倒的。特に山々の稜線や雲海、季節ごとの自然の色彩は、ただ見ているだけで癒される力があります。映像としてのクオリティは非常に高く、自然ドキュメンタリーのような静謐な美しさを持っていたと思います。

 ただ、ストーリーについては少し物足りなさを感じました。山の怖さを軽視して遭難してしまう人が出てきたり、急病人を抱えての救助劇があったりと、大きな出来事は起きているはずなのに、どこか他人事のように映っている印象。ドラマのはずなのにドキュメントのような距離感があって、登場人物たちに感情移入するのが難しかったです。

 全体としては、山小屋の日常を静かに、淡々と眺め続けているような構成。たとえば誰かが倒れても、あくまで冷静に処理していく雰囲気で、観ている側も気持ちが大きく動かされることが少なかったです。セリフも説明的で、登場人物たちが自分の気持ちや背景を言葉で説明しすぎてしまっている印象。

 冒頭のお葬式のシーンでは、弔問客たちがまるで登場人物紹介のように人間関係をセリフで解説し、ヒロインも自分の過去のトラウマ(親の死や恋人の裏切り)を一方的に語る。この構成が続くため、ドラマというより”語りを聞かされている”という感覚が強く、感情的な没入ができなかったです。

 その中で唯一、映像と演技で「良いこと言ってる感」を醸し出すのがトヨエツさん。雄大な景色をバックに「人生ってのは苦難の連続だ」とか「だからありがとうという言葉が身に染みるんだ」といった“味のある言葉”を口にするシーンは確かに雰囲気がありました。でも、それがドラマ全体の流れと噛み合っていたかというと、やや浮いてしまっていた印象も。

 そしてラストカット。まさかの、主人公とヒロインによる“タイタニックばりのくるくる回転”演出で終わるのには、正直驚きを隠せなかったです。感動のフィナーレを狙ったのかもしれないが、あまりにも演出が浮いてしまっていて、ちょっと恥ずかしさを感じてしまいました。

 山というテーマ、そして自然との共生という視点は興味深かったものの、物語と感情の乗せ方に課題を感じる一作でした。

☆☆

鑑賞日: 2014/06/14 試写会

監督木村大作 
脚本木村大作 
瀧本智行 
宮村敏正 
原作笹本稜平
出演松山ケンイチ 
蒼井優 
檀ふみ 
小林薫 
豊川悦司 
新井浩文 
吉田栄作 
安藤サクラ 
池松壮亮 
仲村トオル 
市毛良枝 
井川比佐志 
石橋蓮司 
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