映画【クライマーズ・ハイ】感想(ネタバレ):メディアの真実と葛藤を描く――新聞社内の激しい対立と主人公の決断に迫る感動作

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●こんなお話

 日航機墜落事故が起こった地元の新聞社の仕事の話。

●感想

 登場人物全員が新聞という仕事に対して非常に真剣に向き合い、時には激しい意見のぶつかり合いが繰り広げられます。そのため、一見すると常に喧嘩状態のような、とんでもなく熱い人たちの集まりとして描かれている点が非常に印象的であり、強いインパクトでした。

 普通であればそのような対立は気まずさや亀裂を生みそうですが、本作では後日になってもまるで何事もなかったかのように振る舞い、むしろ対立を乗り越えて協力体制がさらに強まっていく様子が描かれております。こうした姿から、誇りを持って仕事に取り組むことの素晴らしさや、人間関係の複雑さをリアルに感じとれました。

 また、新聞社という普段あまり目にすることのない世界の人々が、躍動感に満ちて動き回る様子だけでも非常に興味深く楽しめました。さらに、本作は原田眞人監督の作品らしく、緻密なカット割りが効果的に用いられており、映像のテンポや緊張感を巧みに高めていると思います。

 しかしながら、原田監督作品に共通する特徴として、台詞がやや聴き取りづらく、序盤は登場人物たちが何を話しているのか把握しづらかった部分がありました。加えて、主人公が現場の雑感を潰されて意欲を失う描写や、遺族と思われる母子が情報を求めて新聞社を訪れるシーン、そして主人公が群馬の地元新聞の意義を改めて認識し、全権デスクとして再び動き始める重要な場面が、ややあっさりと描かれていたために感情移入が難しかったと感じました。

 物語は、事故原因が「圧力隔壁」にあるのではないかという疑念をみんなで調査し、編集部と販売部の間で激しい意見の対立、いわば社内プロレスのような展開へと発展。主人公は決断に苦悩しながらも、現在の山登りの映像とカットバックすることで決意を固めるシーンもありますが、こちらも上手くいきすぎている印象があり、なぜ主人公が最終的に諦める選択をしたのかが明確に伝わってこなかったのが惜しまれます。

 結果として、他紙に事故原因のスクープを先に奪われてしまう流れとなり、ラストのテロップでは事故原因が圧力隔壁ではない可能性も示唆されているようでした。こうした部分から、本作は一筋縄ではいかない現場の複雑さやメディアの真実追求の難しさを描きたかったのだと感じられます。

 また、原作を未読の方には、社内の人間関係や上司の大久保連赤に関する背景、さらには主人公が感じる「自分たちを潰そうとしているのではないか」という疑念などがやや伝わりにくい点もあり、映画のみで理解するにはやや難解な印象を受けました。

 それでも、約140分間にわたって描かれる新聞記者たちの熱い対立や葛藤、そして1985年という時代背景の中で働く人々の姿を垣間見ることができ、サラリーマン映画としても非常に興味深く楽しめる作品であると感じました。

☆☆☆☆

鑑賞日:2011/12/27 Blu-ray 2021/07/19 DVD

監督原田眞人 
脚本加藤正人 
成島出 
原田眞人 
原作横山秀夫 
出演堤真一 
堺雅人 
小澤征悦 
田口トモロヲ 
堀部圭亮 
マギー 
尾野真千子 
滝藤賢一 
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