●こんなお話
1970年後半から80年代のポルノ業界の人たちの悲喜こもごもな話。
●感想
映画監督がたまたま立ち寄ったお店で、接客をしていた青年に声をかける。「君、役者になってみないか?」。それまで何の取り柄もなかった主人公にとって、それは思いもよらない人生の入り口だった。導かれるようにして足を踏み入れたのは、ポルノ映画の世界。初めは戸惑いながらも、ここで生きていくと心に決めた青年は、まっすぐに俳優としての道を歩み始める。
彼のまわりには、同じように映画業界に身を置く人々がいた。売れっ子の映画監督と、その美しい妻である女優。彼女との関係に悩みながらも、さまざまな女性と関係を持ってしまう制作の男。録音を担当する職人肌のスタッフ。そして、「将来は音響にこだわったステレオショップを開きたい」と夢を語る俳優仲間たち。ポルノ映画というフィールドにいながら、それぞれが持つ人生の光と影が静かに、しかし確かに描かれていく。
主人公は持ち前の素直さと魅力で、瞬く間に業界内で頭角を現し、スター街道を駆け上がっていく。誰もがその成功を称え、羨んだ。新たに考案した刑事ドラマ風のシリーズは大ヒットを記録し、その存在はポルノ界を越えて広く知られるようになる。しかし、そんな絶頂期にも翳りは忍び寄る。薬物に手を出したことで健康状態が悪化し、撮影現場では監督から厳しい言葉を突きつけられる。「健康な俳優しか使わない」。その言葉に怒りを爆発させた主人公は、現場を飛び出してしまう。
時代はフィルムからビデオへと移り変わろうとしていた。新しい時代の波をどう受け止めるか、戸惑う映画監督。かつての仲間たちもまた、それぞれの人生に行き詰まりを見せ始める。監督の妻は、元夫との間で子どもの親権を巡る裁判に敗れ、心をすり減らしていく。俳優仲間は融資を受けようと銀行を訪れるが、「ポルノ俳優だから」という理由で断られ、社会の冷たさを痛感する。スポンサーもまた、許されざる嗜好が露見し、逮捕というかたちで表舞台から姿を消す。
主人公も、俳優を辞め、ストリートで立ちんぼのような生活に身を落とす。あれだけ煌びやかだった彼の姿は、そこにはもうない。けれども、どこかで心の奥底に残っていた「俳優として生きたい」という思いが、再び彼を動かす。そしてもう一度、撮影現場に立つことを選ぶ。
物語は主人公を中心に描かれているが、登場人物ひとりひとりの人生が丹念に描かれていて、どの人物にも人間的な奥行きがありました。個人的には、この映画の魅力は“群像劇”としての強度にあると感じました。2時間30分という時間のなかで、彼らの生活や葛藤、夢や敗北が描かれていくのを見つめながら、もっとこの人たちの人生を見ていたい、そう自然と思わせてくれる作品だったと思います。
当時の時代背景を知らなくても、衣装や音楽、美術に至るまで徹底的に作り込まれていることで、観ている側がその時代に引き込まれていく感覚がありました。特にポルノ業界というひとつの共同体の中では、人間関係もあたたかく、ある意味で受け入れられる空気があったように思います。一方で、その枠を一歩外れると、そこには厳しい現実や偏見が待っていて、社会の冷たさとのコントラストが強く印象に残りました。
☆☆☆☆
鑑賞日:2023/03/09 WOWOW
監督 | ポール・トーマス・アンダーソン |
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脚本 | ポール・トーマス・アンダーソン |
出演 | マーク・ウォルバーグ |
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バート・レイノルズ | |
ジュリアン・ムーア | |
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ジョン・C・ライリー | |
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