●こんなお話
昭和33年の東京タワー建築中近くの街に住む人たちの話。
●感想
物語は、集団就職で青森から東京に出てきた若い女性が、自動車修理工場に配属されるところから始まる。立派な会社だと聞いていたけれど、実際にはボロい現場でがっかり。それを口にしたら叱られてしまう。履歴書に「自転車修理が得意」と書いたところを「自動車修理」と勘違いされての配属だったとわかり、謝られながらも自動車修理の仕事に前向きに取り組むようになる。
一方、居酒屋を始めたばかりの女性のもとには、自分の子どもを一時的に預けようとする母親が現れる。育てるのは無理と判断した女将さんは、知り合いの作家志望の男性に無理やりその子どもを預けてしまう。最初は戸惑う作家だが、次第に少年との交流が深まっていく。
少年は学校で自分でも小説を書き始め、クラスメートに才能を認められる。住んでいる作家が彼の作品を盗作し、それが雑誌に掲載されてしまうけれど、少年は「自分の作品が本になった」とむしろ喜ぶ。純粋な喜びにちょっと切なさが重なる場面だったり。
テレビや冷蔵庫が家庭に届くことが大イベントとして描かれ、鈴木オートの日常風景が丁寧に映し出されていく。また、怖がられている「悪魔」と呼ばれる医者は、実は戦争で家族を亡くしていて、夢の中で妻子と穏やかな時間を過ごしている描写が挿入される。
少年が母親の住所を見つけて、友達と一緒に都電に乗って訪ねていくエピソードでは、ついに母と再会…と思いきや会えずじまい。帰りの電車賃も尽きてしまい、家では行方不明騒動。少年たちは母親が隠していた小銭を見つけて、何とか無事に帰宅する。
クリスマスには万年筆をプレゼントされ、作家は居酒屋の女将さんにプロポーズ。さらに、青森出身の集団就職の女性には、実家への帰省切符がプレゼントされる。しかし彼女の表情は浮かない。親に捨てられたと思っていたけれど、本当は心配されていたことがわかり、急いで上野駅へ。みんなで彼女を見送り、夕陽を見ながら映画はおしまい。
昭和の町並みや人々の生活、感情がCGで丁寧に描かれていて、まるで当時にタイムスリップしたかのような世界観にどっぷりと浸れました。いろんな人々の人生の断片が重なり合っていく群像劇的な構成で、まるで短編集を読むような感覚。2時間を超える尺でもまったく退屈せず、どんどん引き込まれていきます。
特に、音楽がドンと流れて感情が爆発するような場面では思わず涙ぐんでしまいました。笑いと涙、昭和の匂い、人とのつながり。どれもが心に沁みて、観終わったあとにじんわり温かさが残る一本でした。
☆☆☆
鑑賞日:2023/11/13 Hulu
監督 | 山崎貴 |
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VFX | 山崎貴 |
脚色 | 山崎貴 |
古沢良太 | |
原作 | 西岸良平 |
出演 | 吉岡秀隆 |
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須賀健太 | |
小清水一揮 | |
堤真一 | |
薬師丸ひろ子 | |
小雪 | |
堀北真希 | |
三浦友和 | |
もたいまさこ | |
小日向文世 |