●こんなお話
自分を騙した相手を人質にして自らの考えを世間に訴える事件を起こした話。
詳細ネタバレあらすじ
1977年2月8日、アメリカ・インディアナ州インディアナポリス。土地開発事業に失敗し、多額の借金を抱えたトニー・キリツィスは、自分の土地を住宅ローン会社メリディアン・モーゲージに不当に奪われたという思いを募らせていた。返済猶予を認めてもらえなかったことや、会社が土地を安く手に入れようとしていると考えた彼は、追い詰められた末に大胆な行動へと踏み切る。
トニーは自宅で散弾銃に「デッドマンズ・ワイヤー」と呼ばれる仕掛けを取り付ける。銃の引き金と長いワイヤーをつなぎ、そのワイヤーを人質の首に巻き付けることで、自分が撃たれたり強引に取り押さえられたりすれば人質も命を落とすという、極めて危険な装置を完成させる。
住宅ローン会社を訪れたトニーは、本来面会する予定だった社長がバカンスで不在だったため、その息子で若き幹部のリチャード・ホールと対面する。持参した細長い段ボール箱から散弾銃を取り出すと、リチャードを脅して拘束し、自作のワイヤーを首へ巻き付ける。警察は狙撃も突入もできなくなり、現場は一気に緊迫した空気に包まれる。
トニーはリチャードを連れて会社を出ると、大勢の野次馬やテレビカメラが見守る中を歩き、自分のアパートへ移動する。事件は発生直後からテレビ局やラジオ局によって全米へ向けて報じられ、市民は固唾をのんで事件の行方を見守ることになる。
アパートを取り囲んだ警察やFBI、交渉人たちは慎重に交渉を開始する。トニーは500万ドルの現金、自分への刑事責任の免除、さらにホール一家からの公式な謝罪を要求し、「金が欲しいわけではない。自分から奪われたものを返してほしいだけだ」と繰り返し訴える。一方、人質となったリチャードは極限状態に置かれながらも冷静さを失わず、トニーとの会話を続け、少しでも状況が悪化しないよう努める。
事件は長時間に及び、現場では交渉を続けるべきか、それとも強制的に解決を図るべきかで警察内部の意見も分かれる。ラジオDJのフレッド・テンプルは現場の様子を実況し、テレビ各局も連日生中継を続けたことで、この事件は全米の注目を集める社会現象となる。住宅ローン会社の関係者やホール一家も対応を迫られ、それぞれが極限の緊張の中で決断を下していく。
やがてトニーは、自らの主張をテレビで生中継させ、司法取引が成立したと思い込んで人質を解放する。しかし、その場で警察に逮捕されることになる。その後は裁判の様子が描かれ、判決が下された後、事件に関わった人々がどのような人生を歩んだのかが紹介されておしまい。
●感想
1977年に実際に起きた事件を知ることができた点は、とても興味深かったです。映画を観るというより、当時の事件を映像資料で追体験しているような感覚がありました。
特に印象に残ったのはエンドロールです。当時の実際の映像が流れ、映画で描かれた出来事と現実がつながる瞬間には、作品本編以上の緊張感がありました。事件がフィクションではなく、本当に起きた出来事だったことを改めて実感させられます。
一方で、映画としてはやや淡々とした印象でした。事件が発生し、その後の交渉、逮捕、裁判という流れを時系列で丁寧に追っていく構成のため、出来事を記録映像のように積み重ねていく作風です。人物の感情が大きく揺れ動く場面や劇的な演出は控えめで、物語としての盛り上がりを期待すると少し物足りなさを感じるかもしれません。
また、劇中ではジョン・ウェインの西部劇がたびたび引用されますが、その比喩や意図を考えながら観ていました。アメリカ人にとっては文化的な意味合いが伝わる場面なのかもしれませんが、自分には最後まで明確には理解できず、もう少し背景を知っていれば見え方も変わったように思います。
実話を忠実に映像化した作品としての価値は高く、派手なサスペンスというより、1970年代アメリカの社会やメディア、人質事件の実態を落ち着いて描いた一本でした。実際の事件に興味がある方や、ガス・ヴァン・サント監督の抑制された演出が好きな方には楽しめる作品だと思います。
☆☆☆
鑑賞日:2026/07/20 イオンシネマ座間
| 監督 | ガス・ヴァン・サント |
|---|---|
| 脚本 | オースティン・コロドニー |
| 出演 | ビル・スカルスガルド |
|---|---|
| デイカー・モンゴメリー | |
| ケイリー・エルウィス | |
| マイハラ | |
| コールマン・ドミンゴ | |
| アル・パチーノ |


