●こんなお話
高校生が自称・武術の達人と出会ってカンフーを習って世直しをしようとするけど…な話。
●感想
落ちこぼれ気味の高校生である淵仔は、親友の阿義とともに鬱屈した日常を過ごしていたが、ある日ボウリング場の駐車場でチンピラに絡まれている謎の老人・黄駿と出会う。黄駿は自らを500年の眠りから目覚めた武術の達人と名乗り、後日再び淵仔の前に現れ、現実離れした身体能力と戦闘技術を披露する。その姿に強く惹かれた淵仔と阿義は彼に弟子入りを志願し、そこに二人の修行の様子を見ていて正義感の強い同級生・乙晶も加わって三人の修行生活が始まる。
黄駿の指導は過酷でありながらもどこか型破りで、三人は基礎体力から格闘技術まで徹底的に鍛え上げられ、やがて覆面をつけて街の悪人を制裁する活動へと踏み出していく。
その一方で、黄駿の語る過去が断片的に描かれる。500年前、彼は凌霄派という武術門派に所属し、藍金や花猫児とともに任務に就いていたが、三人の関係は愛情と嫉妬によって歪み、藍金が暴走して師と花猫児を殺害し、最終的に黄駿と壮絶な決闘を繰り広げた末に砂漠の中で消息を絶ったという因縁が語られる。
現代において、淵仔たちの活動で死者が出ることも仕方ないという黄駿の考えに戸惑い始める。黄駿自身にも異様な変化が現れ始める。彼は悪徳政治家を容赦なく殺害し、かつての弟子たちにも敵意を向けるようになり、ついには阿義が淵仔を守るために命を落とす事態に発展する。さらに淵仔と乙晶は正体不明の組織に拘束される。
黄駿の語っていた500年前の記憶は実在の歴史ではなく、国家規模の極秘人体実験によって人工的に植え付けられた虚構であり、彼は能力を極限まで引き出された被験者の一人だったことが判明する。さらに彼の中には精神から分離・増幅された別人格「藍金」が存在し、それが暴走することで凶暴な殺戮者としての側面を生み出していた。組織はこの二つの人格を競わせることでさらなる力を引き出そうとしていたが、制御は破綻し、藍金の暴走によって事態は収拾不能に陥っていた。
組織は淵仔を利用して黄駿を再び捕獲し、記憶を書き換えることで人格のバランスを操作しようと試みる。黄駿に「自分が勝利する物語」を植え付けることで藍金を抑え込もうとするが、二つの人格は激しく衝突し続け、正義の武術家としての意識と狂気の殺戮者としての衝動が一つの身体の中で対立していく。
最終的に、淵仔と乙晶は黄駿の中で揺れ動く人格の狭間に直面し、彼を止めるか、それとも救うかという選択を迫られる状況に置かれる中で、師弟関係として築いてきた絆と現実の残酷な真実が交錯し、そして奥義の鬼影神速対決をして…という。
序盤から中盤にかけてのカンフー修行と青春要素の組み合わせは非常にテンポが良く、笑いと爽快感が自然に織り交ぜられていて楽しく鑑賞できました。特に黄駿が見せる壁を突き破る演出、スロー演出を活かしたバトルシーンは視覚的なインパクトが強く、歌舞伎の見栄のような気持ちよさが印象に残ります。漫画を映像で見ているかのよう感覚になるギデンズ・コー作品らしさ全開でした。
また、音楽と回想を組み合わせて感情を高めていく演出も相変わらず効果的で、観ている側の感情を引き上げる作りは非常に魅力的に感じました。キャラクター同士の関係性もわかりやすく、青春群像劇としての面白さもしっかりと成立している点が良かったです。
一方で物語が大きく転換する中盤以降は、スケールの広がりから一転して内面へと焦点が移り、閉鎖的な展開になっていくため、ここは好みが分かれる部分だと感じました。世界観の説明や設定の開示が続くことで、テンポの変化を強く意識する構成になっています。
また、冒頭の豆花へのツバを使った表現(カメラマンのアイデアによる演出らしい)など、生理的に受け取りづらいと感じるシーンもあり、このあたりは観る人によって評価が分かれる部分だと思います。一方で、身体が切断されるような大胆な技の表現は発想として面白く、アクション映画としての独自性はしっかりと感じられました。
下品なギャグに回想と音楽と主題歌に自分のベースとなる様々なエンタメを盛り込むギデンズ作品全開で、それを超大作としてお金を出す人たちがいるというこの映画制作の環境に心動かされました。
そして台湾の大作としてスケールの大きさを持ちながら、個人的には知っている日本人の名前がクレジットに並んでいる点も印象が強く、その点を意識しながら観るとまた違った楽しみ方ができる作品だと感じました。
全体として、エンタメ性の高い前半と、テーマ性を強く押し出した後半のコントラストが特徴的な一本でした。
☆☆☆☆
鑑賞日:2026/06/05 新文芸坐
| 監督 | ギデンズ・コー |
|---|---|
| 脚本 | ギデンズ・コー |
| 原作 | ギデンズ・コー |
| 出演 | ダイ・リーレン |
|---|---|
| クー・チェンドン | |
| ベラント・チュウ | |
| ワン・ジン | |
| リウ・グアンティン | |
| ツェン・ワンティン | |
| イエン・イーウェン | |
| ガオ・インシェン |

