●こんなお話
台北の受験戦争中の主人公が誘拐されて誘拐犯たちと過ごす話。
●感想
台湾の中学生リウは受験を控えながらも勉強に身が入らず、どこか気の抜けた日々を過ごしている。成績は振るわず、教師や親からの期待も薄いことに引け目を感じており、クラスメイトの少女リンに想いを寄せながらも気持ちを伝えられずにいる。
夏休みに入り、リウは潜水艦ツアーに参加するため海へ向かおうとするが、計画はうまく進まず街をさまようことになる。その途中で誘拐犯と接触してしまい車に乗せられてそのまま連れ去られる。
身代金の受け渡しでは警察が張り込んでおり、犯人の一人が元刑事であることが判明する。だがその人物は直後に事故死したことがテレビで報じられ、計画は混乱する。そのままリウは台湾南部の農村地帯へと運ばれていく。
到着した場所は海に近いのどかな村で、誘拐犯たちは家族のように共同生活を送っている。リウは監禁されている立場でありながら厳しく拘束されることはなく、次第にその生活に溶け込んでいく。リウは最初こそ戸惑うが、やがて食事を共にし、農作業を手伝いながら穏やかな時間を過ごすようになる。
一方、リウの失踪は警察によって捜査され、家族も懸命に行方を追う。受験を控えた学生の誘拐ということで世間の注目を集め、マスコミは過熱し、家族は試験の延期や特別措置を求めて訴えを起こす。誘拐事件は社会的な関心事となり、受験制度への風刺的な状況が広がっていく。
農村での生活の中で、リウは受験のプレッシャーから解放され、これまで経験したことのない自由な時間を過ごす。海で遊び、時には犯人たちに頼んで勉強道具を手に入れるなど、奇妙な日常が続く。都会とは異なる時間の流れていく。
やがて警察の捜査が進展し、犯人たちは海上で身代金の受け渡しを試みるが、船が故障して計画は頓挫する。彼らは泳いで岸へ戻ろうとし、そこで待っていた仲間と合流するが、その現場に警察が到着する。混乱の中でリウは発見され、無事に保護される。
保護されたリウは、誘拐犯たちについて「助けてくれた」と証言する。その言葉を残しながら、彼はすぐに受験へ向かうことになり、再び日常へと戻っていっておしまい。
台湾の常夏の空気と農村の穏やかな風景が丁寧に映し出されており、画面から伝わる湿度や空気感がとても心地よく感じられました。水が浸水しているような土地の描写や、生活の中に自然が溶け込んでいる様子が印象的で、都市とは異なる時間の流れをしっかりと体感できます。
誘拐という出来事を扱いながらも、物語の中心にあるのが受験であるという構図が独特で、台湾社会における受験競争への視線がシニカルに描かれている点が興味深かったです。命に関わる状況に置かれているにもかかわらず、周囲が気にするのは試験という価値観のズレが、どこか乾いた笑いを生んでいました。
また、誘拐犯グループの関係性がどこか親戚の集まりのように描かれており、そのゆるやかな空気感が作品全体の魅力になっています。緊張感よりも人間同士の距離の近さや日常の延長のようなやり取りが印象に残り、不思議な温かみすら感じられました。
一方で、物語として強い起伏で引っ張るタイプではなく、雰囲気や空気感を味わう作品であるため、じっくりとしたテンポに好みが分かれる部分もあると感じました。110分という上映時間の中で、大きな展開を期待すると少し長く感じる場面もありましたが、その緩やかさ自体が作品の個性として成立しているようにも思えます。
☆☆☆
鑑賞日:2026/04/19 DVD
| 監督 | チェン・ユーシュン |
|---|---|
| 脚本 | チェン・ユーシュン |
| 出演 | リン・ジャーホン |
|---|---|
| シー・チンルン | |
| リン・チェンシン | |
| ウェン・イン | |
| リェン・ピートン | |
| ファン・メイウェン | |
| ア・ピポー | |
| ロー・ピン | |
| リ・チンメイ | |
| チェン・イファン | |
| ワン・ホイフェン | |
| チェン・チンツァイ | |
| リャン・ティンユァン | |
| チェン・ムーイー | |
| チェン・チーシャー | |
| ファン・シャオファン |

