●こんなお話
差別主義者たちがアジア人差別きっかけにどんどんトラブルが大きくなっていく話。
●感想
冒頭、妊娠検査薬を手にする主人公の姿から始まり。時間は朝。小学校の門の外では、親を待っているらしい子どもが一人。そこへ主人公が近づき、自分で描いたという絵本を取り出して読み聞かせを始めます。にこやかにページをめくりながらも、近くにいた非白人の清掃員に気づくと、その子どもに向かって「気をつけて」と声をかける。そこで見ているこちらは、この物語のトーンが単なる日常ではないことをうっすら感じ取るのだと思います。
そのまま歩いて、教会へ。中では、これから集会が始まるらしく、次々と女性たちが集まってきます。初対面の人も多く、それぞれが自己紹介を始めますが、その内容は「アーリア人の血を誇りに思っている」「白人は遺伝的に優れているはずなのに」「最近は非白人ばかりが得をしている」といった内容で、抑えていた感情をこぼすように語られていきます。
彼女たちは、いわゆる主婦や母親でありながら、日々の生活の中で蓄積された小さな不満を言葉にすることで、いつの間にか大きな怒りに変えていっているようにも見えました。会場となった教会の関係者は、そうした空気に気づいてか「トラブルは避けたい」とやんわり集会を切り上げるよう促し、集まりは一度解散。
けれど彼女たちのエネルギーはまだ収まらず、気の合った何人かで「じゃあ二次会へ行こう」となり、グループの一人が経営しているという食料品店に向かいます。酒を手にして再びテンションが高まりはじめたその時、偶然通りかかったアジア人姉妹と口論になります。
そこからの流れは勢いに任せたまま、アジア人姉妹の家へと向かい、留守中に忍び込んでパスポートを燃やそうという悪質ないたずらへ。室内を荒らしながらも笑いが止まらない彼女たちですが、そこへ姉妹が帰宅してしまいます。捕まえた2人に対し、脅し、暴言、さらには身体的な暴力も加えはじめ、緊張感が一気に高まります。
やがて妹がアレルギーショックを起こし、その場で倒れてしまう。空気が一変。慌てる彼女たちは、事態を隠すために「性犯罪の被害者を演じよう」と相談し、証拠隠滅のために姉も殺してしまう。その後、遺体を車で運び、夜の海へ沈めるところまで描かれ、物語は静かに終わり。
前半の長い会話と日常的な描写が、後半の暴力的な展開に向けてじわじわと緊張を積み重ねていたようにも見えますが、観ている途中で「これはどこに向かっているのだろう」と考えてしまう瞬間が何度かありました。
演者の方々の演技は本当に圧倒的で、とにかくテンションが高いまま感情を爆発させていく姿に目が離せなくなります。感情がむき出しになるシーンの連続で、カメラが寄っていく顔のアップや表情の変化には力があり、嫌でも引き込まれてしまいました。
ワンカットで90分を撮影しているという点も非常に興味深く、たとえば最初の学校のシーンで次々と人物が登場しては退場していく流れなど、撮影のタイミングやリハーサルの大変さを想像すると、物語の外側にまで意識が向いてしまいました。撮影中は出演者もきっと緊張していたのではないかと勝手に想像したり。特に動きの多い教会のシーンでは、自己紹介が非常に長く感じられ、序盤は少し退屈に感じてしまうところもありました。
ワンカットで撮るという挑戦そのものは見応えがありましたが、それによって不要な間や繰り返しが目立つ場面もあり、編集の力が持つ意味を改めて考えさせられた気がします。ひたすら勢いで押し切るような構成で、観ていてフラストレーションが溜まってしまう方もいるかもしれませんが、それでもこの作品には、今この時代にこそ観ておく価値のある問題提起が詰まっていたと感じます。
☆☆☆
鑑賞日:2023/05/21 イオンシネマ座間
監督 | ベス・デ・アラウージョ |
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脚本 | ベス・デ・アラウージョ |
出演 | ステファニー・エステス |
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オリヴィア・ルッカルディ | |
エレノア・ピエンタ | |
メリッサ・パウロ | |
シシー・リー | |
ジョン・ビーバース |