映画【ブレイキング・ニュース】感想(ネタバレ):火薬と正義のリアリティ――ジョニー・トーが描く銃撃戦の美学

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●こんなお話

 強盗団を追いかける警察がマスコミのイメージアップ作戦とかもやる話

●感想

 警察による張り込み捜査の最中、犯人グループに動きが察知され、そのまま銃撃戦に突入。騒然とする中、制服警官の一人が両手を挙げて降伏する姿がテレビカメラに収められてしまい、警察への信頼は揺らいでいく。正義の象徴であるはずの警察が、無力にも見えるような一幕が全国に報道され、組織の威信に影が差すことになる。

 その事態を受けて、警察は新たな対策を打ち出す。武装グループが立てこもるビルへの突入捜査において、警官たちの胸部にカメラを装着し、リアルタイムの映像を収集。のちに編集された映像で、勇敢な警察の姿を世間に見せ、イメージ回復を目指すというメディア戦略が開始される。同時に、現場では命令無視の熱血警官が、部下を引き連れ強行突破を図る姿が描かれていく。

 立てこもる犯人グループは、追跡をかわしながら人質を取り、ビルの一室に陣取る。その空間には偶然にも別の殺し屋グループが滞在しており、敵味方の垣根を超え、互いに鍋を囲むような状況に陥る。極限状態の中での微妙な共生関係が、どこかユーモラスに、しかし緊張感を持って描かれている。

 捜査当局の公式発表では、殉職した警官が英雄として称えられ、作戦は成功を収めたように伝えられていく。一方で、実際の現場では混乱や誤算が重なっており、その裏側を記録した映像がインターネット上で公開され、世論は揺れ動いていく。現実と虚構の狭間で進行していく情報戦の様相もまた、見応えのある展開となっている。

 物語はやがて、手りゅう弾を人質に巻き付けて逃走を図る犯人リーダーの陽動作戦にまで発展。最終的に追跡する警官チームが行き着いた先で、広報担当官が人質に取られ、緊迫する状況の中で熱血警官が引き金を引くという結末を迎える。

 互いに命を懸けた立場ながら、同じ部屋で飯を食った者同士の奇妙な連帯感。それをさらりと描いてしまうのがジョニー・トー監督の妙で、銃弾が飛び交う中にも人間味が残っていたのが印象的でした。

 特筆すべきは、映画冒頭のロングテイクによる銃撃戦。建物内外を縦横無尽に移動するカメラと、緻密に構成されたアクションの応酬は圧巻でした。約90分というコンパクトな上映時間のほとんどが火薬と銃声で満たされており、息もつかせぬ展開が続きます。終盤で語られる、強盗が殺し屋の仕事を引き受け、殺し屋が強盗の仕事を請けようとするくだりには、物語全体に漂う奇妙な共犯関係の余韻が込められていました。

 人物の背景や個人のドラマには深く踏み込まず、ただただ事件の連鎖にフォーカスして描ききる潔さも魅力的でした。PTU、OCTB、CIDといった香港警察の専門部隊の呼称が飛び交い、その複雑さもまた作品のリアリティを高めていたように思います。

☆☆☆

鑑賞日:2023/05/10 DVD

監督ジョニー・トー 
脚本チャン・ヒンカイ 
イップ・ティンシン 
出演ケリー・チャン 
リッチー・レン 
ニック・チョン 
ラム・シュー 
ヨウ・ヨン 
マギー・シュウ 
サイモン・ヤム 
リー・ハイタオ 
ホイ・シウホン 
チョン・シウファイ 
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