●こんなお話
チェルノブイリ原発事故が起こって消防士とその恋人とかが巻き込まれる話。
●感想
物語の舞台は、チェルノブイリ原発事故が起こる直前のソビエト連邦。原発近くの小さな町で美容師として働いている女性のもとに、一人の男性が客として訪れます。その男はかつての恋人で、現在は消防士として働く主人公。久しぶりの再会に戸惑いながらも、ふたりはかつての関係を取り戻すように言葉を交わし、自然と彼女の自宅まで一緒に向かうことになります。そこで主人公は、思いがけない存在に驚きます。彼女には息子がいたのです。
その少年は映画が大好きで、特にジャッキー・チェンのアクションに夢中になっている様子。そんな少年に、主人公はフィルムカメラをプレゼントします。その何気ないプレゼントが、後に物語に小さな波紋を投げかけていくことになります。
少年がそのカメラを手に原発の近くを撮影していた矢先、突如として大爆発が発生。チェルノブイリ原発事故の発端です。主人公はすでに消防士を辞める決意を固めていたものの、その報を聞いて現場に駆けつけます。火災現場では、先に到着していた消防士たちが放射線障害によって次々と倒れていきます。重装備もままならない中で作業にあたる彼らの姿が、命の危機と使命感の間で揺れる状況を浮き彫りにしていきます。
仲間の一人が原発内に取り残されていることを知った主人公は、危険を顧みず救出に向かいます。その後、さらなる危機が迫っていることが発覚します。冷却装置の排水を行わなければ、再び大規模な爆発の危険があるというのです。作業に志願する者を募る中、主人公は一度はその任を断ります。避難所に向かい、恋人と子どものもとへ帰る道を選ぶ。
しかし、子どもが体調を崩したことをきっかけに再び決意を固めた主人公は、「最高の治療を受けさせること」を条件に排水作業に志願します。彼は仲間たちとともに原発の地下深くへ潜り、危険な放射線の中で電源を入れようと奮闘します。命を懸けた作業の末に、一度は失敗に終わるものの、主人公はまた現場に戻り、今度はバルブを開けるという任務に挑みます。熱湯が渦巻く環境での潜水作業は、肉体と精神の限界を超えた挑戦。
作業の最中、仲間の一人が溺れてしまい、主人公はふたたび自分の命を懸けてその救出に向かいます。やがて、恋人が病院の病室を訪れると、全身をやけどし、深刻な放射線障害を負った主人公がベッドに横たわっています。彼の傍に寄り添い、そっと添い寝する恋人の姿で物語はおしまい。
130分を超える長編映画ですが、序盤では恋人と主人公が再会し、子どもを交えてゆっくりと関係を築いていく様子が描かれており、原発事故の緊張感との対比が印象的です。また、子どもが映画を愛し、ジャッキー・チェンに憧れる姿など、日常の温かさと静かな幸福が丁寧に映し出されています。
ただし、主人公が恋人の元と原発現場を何度も行き来する構成は、一定の反復感があり。行って戻って、また戻るという展開が繰り返されることで、やや単調に感じる部分もあるかもしれません。また、放射線を浴びながら電源を入れたり、バルブを回したりする作業は、映像的にやや分かりづらく、成功か失敗かが曖昧に映る場面もありました。
とはいえ、自らの危険を承知のうえで突入していく人々の姿が真正面から描かれており、事故の現場で命をかけて働いた人々の存在を強く心に残す映画となっています。放射線という目に見えない恐怖の中で行動する彼らの勇気と葛藤、そして人間関係のドラマが重なり合い、非常に感慨深い一作でした。
☆☆☆
鑑賞日:2023/02/11 WOWOW
監督 | ダニーラ・コズロフスキー |
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脚本 | アレクセイ・カザコフ |
エレナ・イワノワ |
出演 | ダニーラ・コズロフスキー |
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オクサナ・アキンシナ | |
フィリップ・アヴデエフ | |
ラフシャナ・クルコヴァ | |
ニコライ・コザック | |
イゴール・チェルネビッチ |