●こんなお話
テロリストを救急車に乗せてしまって大変、な話。
●感想
朝の光が差し込む中、学生たちが登校する様子が映し出されていきます。スクールバスからぞろぞろと降りてきて、友人たちと話しながらいつもの日常が始まろうとしていました。ところが、そんな穏やかな風景が一瞬にして暗転します。同級生が突然銃を取り出し、銃撃を始めたかと思うと、自らを爆破。静かな校舎が一気に爆音に包まれて、目を疑うような展開に飲み込まれていきます。その衝撃的な導入部が非常に強く、冒頭から一気に作品の世界に引き込まれました。
事件が起きると同時に、救急隊員たちにも出動の要請が入ります。主人公は相棒とともに救急車を走らせ、爆破の現場から重傷を負った少年を救助します。必死の救命活動によって少年の意識は戻りますが、次の瞬間、その身体に巻かれた爆弾に気づきます。少年は救急隊員を脅し、病院に運ばれることを拒み、そのまま走り続けるよう命令します。ここから、逃げ場のない救急車の中で、隊員と少年の緊迫した時間が始まっていきます。
一方、警察も事件の捜査を開始し、少年の身元を特定。自宅を訪ね、父親から話を聞き取ります。息子の行動に苦しむ父親の表情や言葉に、単なる加害者家族としてではなく、複雑な罪悪感や悲しみがにじんでいました。
物語の軸は、走り続ける救急車の中で展開していきます。GPSを通じて主人公たちの不審な動きを察知した指令室からの呼びかけに、主人公が曖昧な返答をしながら時間を稼いでいきます。途中、別の事故現場に向かうよう指示され、救急車の役目としてどう動くか迷う瞬間も描かれます。さらに、少年が信じていた指導者の自宅を訪れたところ、すでに警察が先回りしていたことで、少年の怒りは頂点に達します。
物語は、どのようにしてこの緊張状態から脱するのかという一点に向かっていきます。運転する相棒が救急車を加速させ、暴走する中で事故が起き、警察に包囲されます。主人公はとっさの判断で薬を用いて少年の体を麻痺させ、危機から脱出。そのまま物語は終わりを迎えます。
映像としては、冒頭の長回しがとても印象的で、何気ない日常が突然崩れるその瞬間をリアルに感じさせる演出が目を引きました。また、救急車という閉ざされた空間を舞台に、登場人物の動きや心理をどう描いていくのかという点でも、しっかりとテンポを保っていたと感じます。
ただ、全体としては犯人の少年に脅されながら目的地を走り続けるという繰り返しに終始していて、登場人物たちが工夫を凝らして危機を乗り越えていく場面がやや少なかったようにも受け取れました。事件の背景や少年の心情にも、もう一歩踏み込んで描かれていたら、物語にさらに深みが出ていたかもしれません。ラストも急展開気味で、その結末にもう少し余韻があれば印象が変わったかもしれないと思います。
とはいえ、80分ほどのコンパクトな尺の中でサスペンスをきちんと盛り込んだ構成には好感を持ちました。緊張感のある一本として、最後まで集中して観ることができました。
☆☆☆
鑑賞日:2023/02/04 WOWOW
監督 | アレッサンドロ・トンダ |
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脚本 | デヴィッド・オルシーニ |
アレッサンドロ・トンダ | |
脚本協力 | フェデリコ・スペリンデル |
原案 | デヴィッド・オルシーニ |
アレッサンドロ・トンダ |
出演 | クロティルド・エスム |
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アダモ・ディオニージ | |
アダム・アマラ | |
ヤン・ハメネッカー | |
スティーブ・ドリエセン | |
ミリエム・アクヘディオ | |
ジャメル・バレク | |
モスタファ・ベンケロム |