映画【新宿黒社会~チャイナマフィア戦争~】感想(ネタバレ):バイオレンスと家族の記憶が交差する――男は何のために戦ったのか

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●こんなお話

 中国人孤児二世の刑事が弁護士の弟が最近新宿で暴れまわる台湾のヤクザとべったりだってんで、弟を助けようとする話。

●感想

 夜の街で起きた殺人事件は、あまりにも衝撃的なかたちで始まる。頭部を切断された遺体が発見され、事件の異様さに警察が動き出す。捜査のなかで、主人公の刑事が追うことになるのは、まだ若い少年だった。その少年は逃走の際、制服警官を刺し、そのまま闇に紛れるように姿を消す。

 その一方で、最近になって東京で暗躍を始めていたチャイニーズマフィアの存在が浮かび上がる。組織のボス、ワンという男が日本のヤクザと手を組み、子どもたちの臓器を売買するという信じがたい計画を進めているという情報が入ってくる。

 主人公の刑事は中国残留孤児二世として育ち、新聞でも紹介された過去を持つ。警察という組織の中で一歩ずつ出世を重ねながらも、家族との距離感はどこか情に近い。稼いだ金を両親に渡し、弟にはまっとうな道を歩んでほしいと願っている。

 そんな彼の捜査は次第に正規の手続きを外れていく。情報を得るために、売春婦や外国人に対して激しい尋問を行う。中にはパイプ椅子で顔面を殴りつけるという、暴力による脅迫もあった。正義とされる行為が、いつの間にか怒りや焦燥へと姿を変えていくようにも感じられる。

 やがて、ワンの手がかりを求めて台湾へと渡る。そこにはワンが設立したとされる病院があり、建物の奥では子どもたちを対象にした臓器売買が静かに行われている気配があった。その不気味な空気の中、主人公の心に何かが焼きついていく。

 日本に戻ると、今度は弟が忽然と姿を消していた。大切にしてきた存在だからこそ、彼を取り戻そうと主人公は動く。捜査というより、もはや暴走に近いかたちで街を駆け抜けていき、ついには日本のヤクザに捕まってしまう。

 そのままチャイニーズマフィアに引き渡され、監禁された場所で絶望の淵に立たされる。しかし、ここで意外な助けが現れる。過去に取り調べた売春婦の女性が、命を賭けて主人公を助け出してくれるのだった。

 脱出後、主人公はワンの組織に殴り込みをかけ、部下たちを倒し、そして最後にはワンをも殺す。暴力には暴力で。正義とはなにかと問う間もなく、拳と銃がすべてを制していく。

 物語の最後、主人公は出世を果たし、両親に電話をかける。その声には、少しの疲れと、ほんのわずかのやりきったような響きがあったように思います。

 映画全体を通して、三池監督らしいバイオレンスとエロス、そしてどこか突き抜けたユーモアが織り交ぜられている。主人公の行動は正気とも狂気ともつかないもので、まるで感情の噴火がずっと続いているかのようだった。

 台湾ロケの空気感もよく、どこか湿度を感じる映像と、都市の片隅に潜む暗さが物語を覆っていた。臓器売買というテーマを扱いながらも、そこに倫理的な説教臭さはなく、あくまで背景として冷たく存在していた印象です。

 主演の椎名桔平さんは、何かを背負いながらも決して語らない男の佇まいを見せていて、激しいアクションの中でも一貫してかっこよかったです。

 ストーリーの筋道がどうこうというよりも、むしろ、登場人物たちの言動やその場の空気に没入していくような作品。善悪の境界が曖昧になった世界で、何かを守ろうとする男の姿だけが最後まで心に残りました。

☆☆☆

鑑賞日:2013/07/07 DVD 2024/02/10 WOWOW

監督三池崇史 
脚本藤田一朗 
出演椎名桔平 
シーザー武志 
サブ 
益子和浩 
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