映画【お茶漬の味】感想(ネタバレ):夫婦の距離と再生を描いた小津安二郎の傑作

the-flavor-of-green-tea-over-rice
スポンサーリンク

●こんなお話

 地方出身の素朴な夫と夫にうんざりする上流階級出身の妻の話。

●感想

 小津安二郎監督の作品に特徴的な「小津調」と呼ばれるスタイルが、すでに完成されているように感じられる1本でした。ローアングルから畳の部屋を静かに捉えるカット、正面から人物の台詞を繋げていく独特な編集、部屋の奥から手前、手前から奥へとゆっくりと人物が移動してからシーンが始まる、その静かなリズム。これらの演出に、いつの間にか見入ってしまい、映像の美しさに心を奪われました。

 作品全体は、日常的なやりとりの中にユーモアを散りばめたコミカルな展開で構成されております。冒頭の奥さんと姪っ子の会話から軽妙なやり取りが続き、そのテンポの良さに自然と引き込まれていきました。奥さんが夫に内緒で旅行を計画し、それが少しずつ家族の間に影響を及ぼしていく過程は、とても軽やかに描かれていたと思います。

 姪っ子の見合いがうまくいかず、それがきっかけで夫婦の間にもぎくしゃくした空気が流れ始める展開には、現代にも通じる夫婦関係の微妙なズレが感じられ、非常にリアルでした。そしてそのまま夫に海外転勤の辞令が出て、奥さんだけが見送りに行かず、すれ違いが深まってしまうあたりは、静かな切なさがありました。

 ですが、ふとした瞬間に夫が帰ってきて、何も言わず微笑む奥さんの姿には、どこか可愛らしさと純粋さがあって、そのギャップに心が温まりました。奥さんのツンとした態度からの急な甘さの変化も不自然ではなく、小津作品ならではの人間描写の巧みさを感じました。

 夫が「お茶漬が食べたい」と言う場面、そしてふたりで普段女中が行っている家事を手探りでこなしていく様子には、夫婦の距離が少しずつ近づいていく様子が丁寧に表現されており、見ていてほほえましく思いました。お茶漬を並んで食べる静かな時間に流れている空気感には、言葉を交わさずとも通じ合うような、深い信頼と安らぎが漂っており、とても印象的でした。

 ラストでは、奥さんが友人にこの出来事を語る場面へと自然に繋がり、それまでのやりとりが柔らかくまとめられていたのが素晴らしかったです。少し甘すぎるのではと感じる部分もありましたが、それもまたこの作品の魅力のひとつとして、温かく受け止められました。

 また、昭和27年当時の生活風景――例えばトンカツがご馳走として描かれていたり、レトロなパチンコの様子が映し出されていたりと、時代を切り取る映像の豊かさにも惹かれました。日本の家庭がどのように日常を重ねていたのか、その時代性を感じられるのも、この作品の面白さのひとつだと感じます。

 夫がすべてを察して耐え、妻を優しく受け入れるような夫婦のかたちは、現代の目線で見ると少し重たく映る部分もありましたが、それでもお互いを思いやる心のやりとりには胸を打たれました。

 全体を通して、テンポの良さ、映像の美しさ、計算された編集と、静かな中にも豊かな表情を見せる演出が魅力的な作品だったと感じます。小津安二郎監督の細部に宿るこだわりが詰まった一本であり、今もなお色あせない美しさと味わいを持った映画だと思いました。

☆☆☆☆

鑑賞日:2013/12/13 Hulu

監督小津安二郎 
脚本野田高梧 
小津安二郎 
出演佐分利信 
木暮実千代 
柳永二郎 
三宅邦子 
津島恵子 
設楽幸嗣 
鶴田浩二 
淡島千景 
タイトルとURLをコピーしました