映画【とある飛空士への追憶】感想(ネタバレ):天才飛空士とお姫様の旅路を描く――身分差と差別を超えた物語

The Princess and the Pilot
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●こんなお話

 飛空士と王妃の逃避行の話。

●感想

 序盤から主人公である飛空士が「ドブネズミ」と呼ばれ、ほぼ全員から罵倒されるところから始まります。差別が色濃く残る社会の底辺で生きる彼の姿が描かれて。そんな主人公は飛空士としては天才的な腕前を持っており、極秘任務としてお姫様を護送する大役を任されるのですが、その任務の機密性がすぐに崩れてしまうのが非常に残念なポイントでした。

 具体的には、任務を受けた直後のシーンで、主人公を含む仲間たちが酒場で大声で任務の内容を話しながらどんちゃん騒ぎをしている場面で、「お姫様を守るなんてすごいな!」「俺たちが囮になるからよ!」と、極秘のはずの情報が全員に筒抜けになってしまっており、軍人としての責任感や緊張感がほとんど感じられなかったのは非常に残念で、物語のリアリティが損なわれてしまった印象です。

 その後、メインとなるお姫様との二人旅が始まりますが、こちらも正直なところ退屈に感じました。お姫様が主人公に対してどのような感情を抱いているのか、冒頭から最後まで見えてこなかったため、感情移入がしづらかったのです。周囲の人物たちが主人公を「ドブネズミ」と呼び差別している様子を見て、彼女が心を痛めているのか、それとも最初から彼に対して偏見を持っているのか、視聴者としてはその心情が掴めず、物語の深みが不足しているように感じました。

 さらに、物語の中盤で主人公が敵機に撃たれて重傷を負い、意識朦朧となります。その後、二人は島に隠れ、お姫様が主人公の傷を手当てする場面が描かれますが、一晩経つと主人公の傷がほとんど完治しているのは現実的にはやや不自然に感じました。主人公の傷が浅かったのか、お姫様の手当てが特別に優れていたのか、どちらなのか明確な説明がなく、もう少し丁寧な描写が欲しかったところです。

 また、旅の途中でお姫様が髪の毛を切るシーンがあり。女性が髪を切る行為は多くの場合、決意や心境の変化を象徴する重要な演出ですが、本作ではその描写が非常にあっさりしており、その意味が伝わりづらかったように思います。加えて、その際のお姫様の服装がややセクシーで、主人公がその姿を見て特に何も感じていない様子も、キャラクターの感情面での繋がりが希薄に感じられました。

 「身分違いの恋」といったテーマが描かれているのであれば、もっと感情の変化や二人の距離感の移り変わりを丁寧に描いてもよかったのではないかと感じました。結果として、本作は「飛空士がお姫様を無事届ける」というストーリーがメインであり、100分間の上映時間の中で起伏に乏しく、やや退屈に感じられる部分が多かったのが正直な感想です。

 総じて、才能ある主人公の設定や極秘任務という魅力的な要素がありながらも、描写や演出にもう少し工夫があれば、より深みのあるドラマに仕上がったのではないかと感じました。

☆☆

鑑賞日:2011/10/01 テアトル新宿

監督宍戸淳 
脚本奥寺佐渡子 
原作犬村小六
出演(声)神木隆之介 
竹富聖花 
富澤たけし 
小野大輔 
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