映画【隠し剣 鬼の爪】感想(ネタバレ):身分差の恋と友情の葛藤が描かれた静かな名作時代劇

The Hidden Blade (2004)
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●こんなお話

 下級武士と方向娘の恋とか藩の偉い人たちが酷いことしてくる話。

●感想

 物語は、江戸へ向かう友人を見送る主人公の姿から始まる。家では、妹が親友の元に嫁ぐことになり、家族そろって穏やかで和やかな日々を過ごしていた。女中もいて、彼女との関係も良好で、どこを切り取っても温かさに包まれた日常だった。しかし、そんな穏やかな空気は一変する。女中が嫁に出されることになり、主人公の前から姿を消す。

 しばらくして町で偶然再会した女中は、やつれた様子で元気がなく、主人公は心配になって嫁ぎ先へと向かう。そして、彼女の心身の疲れを目の当たりにし、強引に連れ帰ってしまう。事実上、離縁させて自分の元へ置くことに。世間では二人の関係が噂になり、親友でもあり義理の弟でもある男が、体面を気にしてお嫁さん候補の話まで持ち出してくる。周囲の目も気になり始めた主人公は、女中と海岸を歩いた後、彼女に「実家に戻れ」と告げる。女中は静かに、「ご主人様の命令なら仕方ありえんしね」と言い、納得したように別れを受け入れる。

 そんななか、江戸へ向かっていた親友が謀反の疑いで“郷入り”となる。切腹を命じられるわけではなく、座敷牢に隠されるという処遇に、事態の異様さが際立っていた。親友と交流があった主人公にも疑惑の目が向けられ、藩の上層部から仲間の名前を吐くよう命じられるが、「侍は友の名を言わぬ」と断固として拒否する。その姿勢に、家老が「平侍の分際で」と鼻で笑う。

 主人公は、親友と向き合う覚悟を決め、師匠のもとで修練を積む。そして座敷牢へ向かい、藩命として親友に「切腹せよ」と告げるが、当然拒絶される。やむなく果し合いへと発展し、主人公は目線を外す隠し技で斬りつける。加えて、物陰に潜んでいた新式銃によって親友は撃たれ、倒れてしまう。その裏では、親友の妻が家老に助命嘆願していたが、実は家老に弄ばれていたことが明らかになる。

 主人公は、怒りに震えながら、鍔の中に仕込まれた小刀を取り出し、練習を重ねる。そして、廊下ですれ違いざま、家老に対して放つ渾身の一撃。“隠し剣 鬼の爪”が発動される瞬間は、まさに武士としての誇りと怒りが交錯する名場面でした。

 この作品には、決して派手な暮らしは描かれていない。貧しくても、真面目に働き、家族と食卓を囲む日々の営み。その素朴さが、登場人物たちの生き方に温かみを与えていたように思います。西洋の技術が入り始めた時代に戸惑う侍たちの姿も、ユーモアを交えながら描かれていて、重くなりすぎず楽しめるバランスが取れていました。

 物語の後半では、友情と忠義のはざまで揺れる主人公の姿が際立ち、理不尽な藩命に従わざるを得ないという武家社会の悲哀も伝わってきました。そして、何より家老の行為に対する怒りが、隠し剣に込められた想いと一致するクライマックスは圧巻でした。

 ただ、物語の構成として、前半は女中との交流、後半は親友の謀反という形で二部構成になっていて、それぞれのエピソードがやや接続の浅さを感じさせました。とくに、侍と女中の関係性において、身分違いゆえの葛藤が強く描かれていたわけではなく、二人が互いに思い合っているのならば、なぜ一緒になれないのかと感じてしまう場面もありました。当時の風習や常識について、もう少し描写があると、より説得力が増したかもしれません。

 とはいえ、冨田勲さんの音楽が流れる中、主人公が自分の想いを打ち明けるラストシーンは非常に美しく、心に残るものでした。ラストには清々しさもあり、観終えたあとに静かな余韻が残る、見応えのある時代劇だったと思います。

☆☆☆☆

鑑賞日:2012/11/08 DVD 2022/03/18 Amazonプライム・ビデオ

監督山田洋次 
脚色山田洋次 
朝間義隆 
原作藤沢周平 
出演永瀬正敏 
松たか子 
吉岡秀隆 
小澤征悦 
田畑智子 
高島礼子 
緒形拳 
小林稔侍 
倍賞千恵子 
田中邦衛 
田中泯 
綾田俊樹 
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