映画【洲崎パラダイス 赤信号】感想(ネタバレ):昭和の赤線地帯と男女の行く末を描いた名作

susaki
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●こんなお話

 東京洲崎遊廓の入口の飲み屋で働く男女が別れたりよりを戻したりする話。

●感想

 お金も家もなく、あてもない主人公のカップルが、バスに乗って流れ着いたのは赤線地帯の外れ。たまたま目に入った飲み屋の住み込み求人を見て、女性が働き始めることになる。住み込みで働けることで生活は落ち着くが、店にやってくる男性客に対応する女性の姿を見て、恋人の男性は嫉妬に苦しむ。

 やがて男性も、近くの蕎麦屋で出前持ちとして働き始める。そんな中、飲み屋の常連客の裕福なおじさんに女性が気に入られ、ついにはその男に囲われて出ていってしまう。残された男性は、女性を探して街をさまよい続けるが見つけられない。彼を気遣う蕎麦屋の娘さんの存在が心を支えてくれる。

 一方、飲み屋の女主人のもとには別れた夫が戻ってくる。夫は改心して貸しボート屋としてまじめに働き、子どもの世話にも取り組むようになる。

 やがて女性が戻ってきて、男性を探す。しかし女主人は、彼は今真面目に働いているから会わない方がいいと助言する。それでも女性は男性の働く蕎麦屋で待ち続ける。ところがタイミングが合わず、女性が店を出た直後に男性が戻ってきて、待っていたことを聞かされる。慌てて外に出た男性は雨の中、女性を探しに走る。

 そのときパトカーのサイレンが鳴り響き、人だかりができていた。向かうと、なんと女主人の夫が、付き合っていた別の女性に刺されて命を落としていた。呆然と立ち尽くす女主人。

 時間が経ち、また同じ飲み屋の前。成金男性が「〇万円の損失か」などと話していて、求人を見てきた若い女性を軽くあしらっている。そんな中、主人公カップルは再びバスに乗り込み、どこかへと向かっていく。

 昭和の日本、特に風俗街の風景がリアルに映し出されていて、ただその時代の空気を感じられるだけでも見応えがありました。都電が走る街並みや、今では見られない光景にノスタルジーが溢れます。

 何よりも印象的だったのは、見ず知らずの男女を放っておけず世話してしまう、酒屋のおばちゃんの底知れない優しさ。別れた夫を再び受け入れてしまう女主人の心情には、言葉にならない感情を突きつけられるものでした。

 物語の根底には「ダメな男でも見捨てきれない女心」が描かれていて、主人公の男女はそれぞれ新たな可能性に出会いながらも、結局元に戻ってしまう。とくに、彼女が居酒屋で生き生きと働いている姿をただ拗ねて見ている三橋達也の演技が印象的で、嫉妬と情けなさが同居した表情が素晴らしかったです。

 蕎麦屋の娘役、芦川いづみの可愛らしさと優しさには惹かれるものがあり、あんな素敵な女性がそばにいながら、主人公はやはり元の恋人を選んでしまう。

 飲み屋や赤線地帯の世界は自分には縁がないですが、それでも、見知らぬ人に手を差し伸べたり、面接が一目見ただけで終わるような時代の空気感が興味深く、昭和の人情や風俗に触れられる貴重な一本でした。

☆☆☆

鑑賞日:2010/01/27 DVD 2023/09/10 Amazonプライム・ビデオ

監督川島雄三 
脚色井手俊郎 
寺田信義 
原作芝木好子 
出演新珠三千代 
三橋達也 
轟夕起子 
植村謙二郎 
平沼徹 
松本薫 
芦川いづみ 
牧真介 
津田朝子 
河津清三郎 
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