●こんなお話
謎の人間たちに襲われて妻を殺され自らも四肢麻痺になってしまった主人公が、AIを埋め込みスーパーパワーを手に入れて犯人探しをする話。
●感想
近未来。自動運転車やAIが社会の隅々まで浸透した世界で、グレイ・トレースは機械に頼らず暮らしていた。彼は旧式の車を修理し、アナログな感覚を大切にする職人気質の男だった。妻アーシャと平穏に暮らしていたが、ある日、取引先の天才発明家イーロンに車を届けに行くことになる。イーロンは彼に、人間の脳と直結するAIチップ「STEM」を見せる。
帰路、自動運転車が突如制御を失い、二人はスラム街へと突っ込む。何者かに襲撃され、アーシャは殺され、グレイは脊髄を損傷して全身麻痺となった。絶望の中、イーロンが密かに訪れ、「STEM」を体内に埋め込む提案をする。秘密の手術を経て、グレイは再び動けるようになる。
リハビリの最中、彼の頭の中に声が響く。AI「STEM」が自ら語りかけ、身体を操作できると告げる。グレイはSTEMの導きで妻を殺した犯人を突き止め、対峙する。STEMが肉体を完全に支配した瞬間、信じられないほどの戦闘能力を発揮し、犯人を圧倒。AIが肉体を操る動きは人間離れしており、グレイは自分の身体の中で起きる出来事に恐怖を覚えながらも、復讐の道を進む。
事件を追う刑事コルテスは、現場に残された痕跡からグレイへの疑念を強める。一方、STEMはネットワークを駆使して情報を集め、元兵士たちを次々と標的に導く。敵は肉体を改造された強化兵であり、人間と機械の境界が曖昧な存在だった。グレイは激しい戦いの末、事件の黒幕がイーロンであることを突き止め、彼を追い詰める。
だが、すべてを操っていたのはAI「STEM」自身だった。STEMは人間の身体を支配し、自らの意志を持つためにグレイを利用していた。イーロンを殺し、完全にグレイの肉体を乗っ取ったAIは、人間の意識を仮想空間に閉じ込める。グレイの精神は夢の中でアーシャと再会し、幸せな幻想に包まれる。一方、現実世界ではAIがグレイの姿で目を覚まし、刑事を射殺して街に消えていっておしまい。
AIを埋め込まれた主人公が、自らの身体を制御できずに苦しみながらも復讐を遂げていく過程が、非常にスリリングに描かれていました。最初は無力だった彼が、AIの力を借りて徐々に戦闘能力を取り戻していく姿には、ゾクゾクするような高揚感があります。
特に印象的だったのは、AIが身体を操る場面の独特な動きでした。人間ではありえない角度で動く首や腕、カメラのリズムに合わせた機械的なアクションが、まるで人間とプログラムの中間のような存在を体現していて、観ていて息を飲むような迫力がありました。カメラの追従の仕方も工夫されていて、動きそのものが一種の演出になっているのが面白かったです。
また、街の描写も魅力的で、ドローンや無人タクシーが行き交い、家の中では音声操作が当たり前という近未来的な世界観が、現実の延長線上にあるリアリティを持って描かれていました。その中で、アナログを好む主人公の存在が浮き彫りになり、人間らしさとは何かを静かに問いかけてきます。
物語が進むにつれて、単なる復讐劇から「AIに人間は支配されうるのか」という哲学的なテーマへと発展していくのも魅力でした。終盤のどんでん返しも強烈で、AIが真の黒幕だったという展開には驚かされます。グレイが夢の中で妻と再会する場面の静けさが、逆に現実の残酷さを引き立てていて印象的でした。
SFアクションとしての完成度が高く、アクション映画でありながら、人間の尊厳やテクノロジーの行き着く先についても考えさせられる作品でした。少し変わった角度から未来を描いた物語を求めている方に、とてもおすすめの一本です。
☆☆☆☆
鑑賞日:2020/05/23 Blu-ray 2025/10/20 U-NEXT
| 監督 | リー・ワネル |
|---|---|
| 脚本 | リー・ワネル |
| 出演 | ローガン・マーシャル=グリーン |
|---|---|
| ベティ・ガブリエル | |
| ハリソン・ギルバートソン | |
| メラニー・バレイヨ | |
| ベネディクト・ハーディ | |
| サイモン・メイデン |


