●こんなお話
車がクラッシュして気づいたら知らないおじさんのシェルターに監禁されていて「外は危険」と言われながらも信じられずビクビクしながら脱出しようとする話。
●感想
この男は信用できるのか。なぜ助けられたのか。そして本当に外は死の世界となっているのか。言動の端々に見える猜疑心と支配欲、突然怒り出す情緒の不安定さが、観ていて徐々に不穏な空気を強めていく。主人公が目を離した隙に施錠されている部屋、過去の出来事を語りたがらない様子、密かに握られる銃など、細かな伏線が丁寧に張られていく構成。
ジョン・グッドマンが演じるこの男の存在感が非常に大きく、もし彼が別の俳優だったら成り立たなかったかもしれないと感じるくらいには、彼の迫力と不気味さが全体を支えていた印象です。ぶ厚い身体と穏やかな口調の裏にある異様な支配欲を漂わせる演技がとても印象的で、不安と恐怖を観る側にじわじわと植え付けてくれました。
基本的には「この人、信用していいんだろうか?いや、やっぱり危ない気がする……」という疑念を軸に物語が進んでいきます。観ていて常に揺れ続ける心の動きが作品の推進力になっていて、密室劇の緊張感をしっかりと維持していたように感じます。ただ、その緊張が想像を越えるような恐怖にまで至るかというと、そこまでの高まりにはならなかったように思いました。
特にクライマックスの約10分で一気に真実が明かされる展開になるのですが、その種明かしがもたらす「正解」の提示が、逆に物語の含みや余韻をそいでしまったようにも思えました。観客の側に「もしかしたら…」という想像の余地が残っていたほうが、現実味のある怖さが強まったのではないかと個人的には感じました。
また、脱出できるのか否かというサスペンス要素についても、ハラハラとするほどの強度が続くわけではなく、やや単調に思えてしまった部分もありました。物語の構造上、密室からどう抜け出すかが大きなテーマであるはずですが、その緊迫感が中盤以降やや緩んでしまう印象です。
終盤、主人公が一気に行動を起こしてシェルターを飛び出す展開も、それまでの力関係や描写と比べるとやや唐突に感じてしまいました。相手側があまりにあっさりとやられてしまう場面には、少し拍子抜けしてしまう部分もあり、もう少し説得力のある対決になっていたらより深く引き込まれたかもしれません。
それでも、ジョン・グッドマンという俳優の存在が全体を引き締めてくれた作品で、彼の演技に引きずられるように最後まで見届けることができました。密室の中にある不信と支配、そして自由への欲求というテーマは、非常に普遍的で、見る人それぞれに異なる問いを投げかけてくるような映画だったと思います。
☆☆☆
鑑賞日: 2016/06/21 TOHOシネマズ日劇
監督 | ダン・トラクテンバーグ |
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脚本 | ジョシュ・キャンベル |
マット・ストゥーケン | |
デイミアン・チャゼル |
出演 | メアリー・エリザベス・ウィンステッド |
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ジョン・グッドマン | |
ジョン・ギャラガー Jr. |
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