●こんなお話
お宝さがしをする男女3人の話。
●感想
冒頭から流れるメインテーマが、海の向こうへと誘うようにゆっくりと広がっていく。ロングショットでとらえた風景が、物語の始まりを告げるわけでもなく、ただそこに在る美しさとして静かにスクリーンに映し出されていた。その映像に耳を傾け、目を向けているうちに、気がつけば独特の時間感覚に包まれました。
物語の核には、東宝制作でありながらどこか東映の任侠映画を思わせる構造があった。高倉健さんが演じる男が、かつての兄貴分を殺した人物に対して、復讐を果たそうとする。そこに絡むのが、勝新太郎さんが演じる一筋縄ではいかない男で、まるで詐欺師のような立ち振る舞い。彼はヒロインの梶芽衣子さんをその世界から足抜けさせ、かつて海に沈んだバルチック艦隊の残した財宝を探す旅へと誘う。大きな物語がゆっくりと動き出していく。
全体の尺はおよそ90分ほど。ただし、その時間の大半が宝探しの準備や人間関係の交錯に費やされており、実際にお宝探しの冒険が動き出すのは終盤近くなってからでした。構成としては静かでありながら、どこか観客をじらすようなテンポで、正直なところ退屈に感じられる時間帯もありました。唐突に挿入される夢のような映像や、現実と幻想の境目が曖昧になるようなシーンが続くことで、物語の輪郭を掴みにくく感じる瞬間もありました。
とはいえ、やはり映像の美しさには目を見張るものがあり。夕日が水平線に沈んでいくその瞬間、静かな海にたゆたう一艘の小舟。青く茂る稲が風に揺れる情景。台詞やアクションがなくとも、ただそこに映る自然の力に心が惹かれる。そうした風景の中に高倉健さんと勝新太郎さんが二人並んでいるだけで、その絵が完成されてしまうような力があったと思います。そこには言葉ではなく、画の中に込められた俳優たちの存在感が確かに感じられました。
ストーリーとしては、復讐と再生、そして過去との決別といったテーマが重ねられており、それを情緒的に彩るのが映像でした。人物同士の会話の端々に、人生の深みや未練のようなものがにじみ出ていて、物語の全体像がすぐに見えてこない分、じっくりと時間をかけて染みてくる味わいもあったように思います。
高倉健さんの佇まいの凛とした静けさ、勝新太郎さんの軽妙でありながら底知れない深さ、そして梶芽衣子さんの芯の強さと儚さ。その三者のバランスが、とても独特で印象的でした。派手さは控えめでしたが、そのぶん、一瞬一瞬の表情や間の取り方に惹かれる場面も多く、静かな映画だからこそ感じられる余白の魅力がしっかりと息づいていたように思います。
☆☆☆
鑑賞日: 2015/05/27 DVD
監督 | 斎藤耕一 |
---|---|
脚本 | 中島丈博 |
蘇武道夫 |
出演 | 高倉健 |
---|---|
勝新太郎 | |
梶芽衣子 | |
藤間紫 | |
山城新伍 | |
栗崎昇 | |
中谷一郎 | |
大滝秀治 | |
荒木道子 | |
木下サヨ子 | |
今井健二 | |
石橋蓮司 |