●こんなお話
自分が自分の主人公が仲間を得て、宇宙連邦の宇宙船の船長になるまでの話。
●感想
宇宙艦隊の調査船ケルヴィンが、時空に走った裂け目から突如現れた巨大船の攻撃を受ける場面から始まる。正体はロミュラン人ネロが指揮する採掘船ナラーダで、彼は未来でロミュラスが消滅した原因を連邦とスポックにあると決めつけ、復讐のため過去へ迷い込んでいた。圧倒的な戦力差の中、副長ジョージ・カークは乗員を救うため単艦で突撃し、その身を犠牲にする。脱出艇の中で妻ウィノナが産んだ息子は、父の名を継いでジェームズ・T・カークと名付けられる。
少年時代を荒れ気味に過ごしたカークは、やがて青年となっても問題ばかり起こしながら田舎町で退屈を持て余していた。そんな彼の前に現れたのが、かつてジョージの最期を目撃していたパイク大佐だった。パイクは父が多くの乗員を救った事実を語り、同じ資質が息子にもあると告げ、宇宙艦隊アカデミー入りを勧める。反発心を抱きながらも、カークは宇宙へ出る道を選ぶ。
アカデミーでは医療士官候補生マッコイと友情を育み、語学と分析に秀でたウフーラ、厳格な論理を重んじるヴァルカン人スポックたちと出会う。訓練プログラム「コバヤシマル」でカークが独自の突破法を用いたことが問題となり、スポックと対立するが、これが後の運命に影響を与えていく。
そんな中、銀河各地で不可解なエネルギー異常が続発し、ヴァルカンから救難信号が届く。候補生たちも臨時に実戦へ動員されることになり、運用上の混乱の中でカークは異常の正体を察知してネロの存在を指摘する。パイクは忠告を受け止め、カークをエンタープライズへ乗せる。艦には機関士スコッティや若き操舵士チェコフらが揃い、最新鋭艦は急行する。
しかし現場に着くと、ヴァルカンはナラーダの攻撃で崩壊の寸前だった。ネロはレッド・マターと呼ばれる球状物質で惑星内部にブラックホールを作り、星そのものを飲み込もうとしていた。カークとスールーは装置の阻止を試みて降下するが失敗し、スポックは母アマンダと僧たちの救助へ向かう。しかし瓦礫が崩れ、母は救出直前で落下し、スポックは惑星が消えていく瞬間を見つめるしかなかった。
心を乱されたスポックはエンタープライズ指揮官としての冷静さを欠き、再びカークと衝突する。そして規律を理由にカークを脱出艇で惑星デルタ・ヴェガへ追放する。氷の荒野に投げ出されたカークが出会ったのは、未来から来た老スポックだった。老スポックはロミュラス消滅に至る経緯とネロの憎悪の背景を語り、カークにエンタープライズの未来のためスポックとの協力を求める。
二人はスコッティのもとへ向かい、彼の転送理論を応用して脱出艇から艦へ戻る方法を実行する。カークは艦へ帰還すると、スポックが指揮には不安定だと判断し、彼を挑発して感情を露わにさせることで自発的に指揮権を返上させる。そして臨時艦長となったカークはネロの次なる標的が地球であると推測し、行動に移る。
ネロは地球をヴァルカンと同じ方法で破壊しようとしていた。エンタープライズは敵艦突入作戦を開始し、カークとスールーはナラーダ内部でパイクを救出する。一方、スポックは奪われたヴァルカンの記憶球カトラを回収し、敵船の中枢を破壊する。スポックがレッド・マター容器を奪って脱出すると、容器の暴発によってナラーダは自らの作り出した重力に引きずられ始める。カークは降伏を求めるが、ネロは拒み、そのまま消滅していく。スポックは危うく巻き込まれそうになるが、カークの操艦に助けられた。
戦闘後、パイクはカークの功績を認め、正式にエンタープライズ艦長を任命する。若きスポックは老スポックと対面して、自分が人間とヴァルカンの間でどう生きるべきかの道筋を見出し、カークの副官として残る道を選ぶ。新しいクルーが揃い、エンタープライズは新たな航海へ向けて出立し、ここから彼らの冒険が始まっていっておしまい。
物語の冒頭でいきなり宇宙艦隊の船が襲撃され、船長代理となった男性が出産間近の妻を守ろうと脱出艇へ送り出す一方、自らは船に残って戦死するという展開が強く印象に残りました。その息子が主人公として成長し、荒れた生活を送りながらも父の影響を受けて宇宙へ向かう決意をする流れは、王道でありながら胸に残る導入だったと思います。
アカデミーで多くの仲間と出会い、互いに反発しながらも成長していく過程は青春劇のように軽やかで、そこに大作としての派手な見せ場が次々と重なっていくため、娯楽作品として非常にテンポが良いと感じました。通信士や操舵士、若き天才、医者など、それぞれの特性が明快で、登場人物の輪郭がしっかりしているので、それだけで応援したくなる魅力がありました。
スポックに関しては、ヴァルカン人としての冷静さと人間の母を持つゆえの葛藤が物語に深みを与えており、彼が差別や内面の葛藤と向き合いながらも有能な士官として働く姿は特に印象的でした。主人公との衝突も、互いの未熟さから生まれるものであり、そのぶつかり合いが成長に繋がっていく過程が丁寧に描かれていたと思います。
一方で、敵であるネロが惑星の内部にブラックホールを設置して消滅させるという極端な行為を行いながら、「スポックを探している」という要素が説明と回想で一気に示されるため、理解が追いつきにくい場面もありました。氷の惑星での説明は重要ですが、速度が早くて情報が駆け抜けていくような印象を受けました。
土星の裏側を利用して敵に気づかれずに接近する作戦や、スポックの突入とワープによる脱出など、後から振り返ると大胆な作戦が多く、その場では細部を把握するのが難しい瞬間もあります。ただ、テーマ曲が力強く流れるだけで場面が大きく引き締まり、全体として見せ場が連続するため、細かい部分より勢いで押し切る魅力がありました。
派手な映像とリズムの良い展開が続き、約二時間を通して飽きることなく楽しめる作品だったと思います。キャラクターの魅力とスピード感が調和し、シリーズの新しい幕開けとして観やすい構成になっていると感じました。
☆☆☆☆
鑑賞日:2011/01/04 Blu-ray 2022/06/06 Hulu 2025/12/09 U-NEXT
| 監督 | J・J・エイブラムス |
|---|---|
| 脚本 | ロベルト・オーチー |
| アレックス・カーツマン | |
| 原作 | ジーン・ロッデンベリー |
| 出演 | クリス・パイン |
|---|---|
| ザカリー・クイント | |
| エリック・バナ | |
| ウィノナ・ライダー | |
| ゾーイ・サルダナ | |
| カール・アーバン | |
| ブルース・グリーンウッド | |
| ジョン・チョー | |
| サイモン・ペッグ | |
| アントン・イェルチン | |
| ベン・クロス | |
| レイチェル・ニコルズ | |
| ディオラ・ベアード | |
| クリフトン・コリンズ・Jr | |
| レナード・ニモイ |


