映画【戦争と一人の女】感想(ネタバレ):戦争が奪ったもの──帰還兵と女たちの交錯する心の闇

Sensô to hitori no onna
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●こんなお話

 戦争と一人の女と男の話。

●感想

 駅のホームに降り立った一人の帰還兵。妻と子どもが迎えるなか、彼は中国戦線からの帰還兵で、右腕を失っていた。だが、家族との再会にもかかわらず、彼の心と身体は反応せず、妻との関係もままならない。そんなある日、山中で強姦されている女性を偶然目撃し、その異様な状況に身体が反応してしまう。それをきっかけに、彼は女性を山へ誘い込み、次々と犯していくという狂気に堕ちていく。

もう一方で描かれるのは、口減らしで女衒に売られた若い女性。彼女はある作家と出会い、戦時中だけの「契約的な夫婦」として暮らすことになるが、情事に対して何も感じることができない。感情を殺して日々をやり過ごす彼女と、淡々と接する作家との関係は、戦争によって感覚を失った人間同士の静かな交錯。

この二つの物語が交互に描かれていきます。映像は手持ちカメラによる揺れのある撮影が特徴的で、全体を覆うのは退廃的な空気感と虚無的なトーン。江口のりこさん、村上淳さん、永瀬正敏さんの熱演は特筆に値し、静かな中にも鬼気迫るものを感じさせてくれます。その演技だけでもこの作品を見る価値はあると感じました。

ただ、3人の人物像の描写がどこか中途半端で、演出もどこか距離感があり、淡泊に映ってしまったのが残念。帰還兵の側の物語は、彼のレイプ行為が何度も描かれるが、その理由や背景が語られず、ただのサイコパスのようにも見えてしまいました。戦地で何が彼を壊したのか、それとももともと内に秘めていたものなのか。その内面をもっと掘り下げてほしかったです。

もう一つの物語である不感症の女性と作家の関係も、淡々と進むだけで、情感の積み重ねや心理的な緊迫感に欠けていたと思います。戦争終結後にパンパンとして生きるようになる女性の変化にも、もっとドラマがあってよかったと思ったり。駅で偶然帰還兵と再会し、レイプされそうになる展開も唐突で、やはり淡泊な印象を拭えなかったです。

戦争の悲劇や、それによって心や人間性を失ってしまった人々の苦しみを描こうとした作品であることは伝わってきて、ただ、それが観る側に深く刺さる形で映像や物語として提示されていなかったのが、とても惜しいと感じました。

☆☆☆

鑑賞日: 2014/05/14 DVD

監督井上淳一 
脚本荒井晴彦 
中野太 
原作坂口安吾 
出演江口のりこ 
永瀬正敏 
村上淳 
柄本明 
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