●こんなお話
ベトナム帰還兵のおじさんが組織の抗争跡で大金を見つけてネコババしたらオカッパの怖い殺し屋に追いかけられる話。
●感想
組織の大金を偶然手にしてしまい、そこから追手との壮絶な攻防が始まる――そんなジャンル映画にありがちな展開を、異様なまでに淡々と描くのが斬新でした。全編を包む乾いた空気と、アメリカ南部の砂漠の風景が強く印象に残る、まさに「砂っぽい」一本です。
何より強烈だったのは、登場する殺し屋の存在感。どこで怒りのスイッチが入るかわからない不気味さに加え、感情の読めない無表情と静かな口調で人を殺していく様子がターミネーターのようで圧巻でした。特にショットガンにサイレンサーをつけるという斬新な武器のチョイスには驚かされます。
コーエン兄弟らしいバイオレンス描写も健在で、重く響く銃声や血の演出はシンプルながら強烈。殺し屋と元ベトナム帰還兵の主人公との攻防は、一進一退の緊張感に満ちていて、そこにさらに別の殺し屋やギャングの追っ手が加わるなど、次第に混迷を深めていく展開が見事でした。
その一方で、何もかもに置いていかれるような老保安官の存在が、独特のリズムと皮肉を加えていて、この作品の「ただの追跡劇」では終わらせない奥深さにもなっていたと思います。
印象的だったのは、殺し屋が主人公の妻のもとを訪ねたあと、家を出てきて靴の裏を玄関マットでふくシーン。明言はされないが、そこで何があったかは一目瞭然。こうした省略の上手さも、この映画の味だと思います。
また、大金に仕込まれていた発信機の精度の高さや、国境での「100%怪しい見た目の男がベトナム帰還兵だとわかった途端、敬意を払われる」というシュールな笑いも随所にあり、緊張感一辺倒ではないバランス感覚も魅力的でした。
物語の終盤、主人公と敵組織の決着が唐突にカットされたような構成も印象的で、一瞬混乱しつつも、それが作品のテーマと合っているからこそ面白かったです。最後のラストも「これで終わるのか」と肩透かしを食らいつつも納得できるコーエン兄弟ならではの独自性が光る作品でした。
120分間、最初から最後までずっと緊張感が途切れず、それでも観終わったあとは妙に納得してしまう不条理で乾いたバイオレンス映画の傑作だと思います。
☆☆☆☆☆
鑑賞日:2010/02/08 Blu-ray 2021/06/28 NETFLIX
監督 | ジョエル・コーエン |
---|---|
イーサン・コーエン | |
脚本 | ジョエル・コーエン |
イーサン・コーエン | |
原作 | コーマック・マッカーシー |
出演 | トミー・リー・ジョーンズ |
---|---|
ハビエル・バルデム | |
ジョシュ・ブローリン | |
ウディ・ハレルソン | |
ケリー・マクドナルド | |
ギャレット・ディラハント | |
テス・ハーパー |