映画【しあわせな選択】感想(ネタバレ):中年失業男の暴走と再就職戦争

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●こんなお話

 製紙工場の管理職の主人公がクビになって再就職のためにライバルたちを殺害していこうとする話。

●感想

 アメリカ資本の製紙会社で25年にわたり働いてきた専門家ユ・マンスは、妻ミリと二人の子ども、そして二匹の犬に囲まれ、郊外の一軒家で安定した生活を送っていた。だがある日、会社の合理化によって突然解雇を言い渡される。長年会社に尽くしてきたという自負は一瞬で崩れ去り、マンスは中年失業者として放り出される。

 再就職活動を始めたマンスは、自分の経験と能力があればすぐに次が見つかると考えていた。しかし現実は甘くなく。面接はうまくいかず。3か月で再就職という目標難しく、13か月経ってしまう。不採用の通知が続き、貯金は減り、住宅ローンの支払いも滞る。やがて生活費を捻出するために愛犬を手放す決断を迫られ、家族の空気も重くなっていく。

 ミリは歯科助手の職を得て家計を支えようとするが、それだけでは十分ではない。追い詰められたマンスは、好調の製紙会社への就職を考えるけどマネージャー~冷たい態度を取られて、彼を殺害しようとする寸前まで追い詰められる。そして、その職に応募しているライバルたちさえいなければ、自分が採用されるはずだという歪んだ確信が芽生える。彼は偽の求人広告を出し、応募者を呼び寄せては排除するという危険な計画を立てる。それこそが家族を守るための「しあわせな選択」だと、自分に言い聞かせる。

 最初の標的となったボムホの自宅に忍び込んだマンスは、間男を装って混乱を引き起こし、その隙に殺害しようとする。だが予想外にボムホの妻が銃を手に反撃し、もみ合いの末に妻がボムホが射殺されるという混乱に陥る。爆音で音楽が流れる中、床を転げ回りながら銃を奪い合うドタバタの格闘が展開され、マンスは命からがら逃走する。

 計画は狂いながらも止まらない。次に目を付けたのは靴屋で働く応募者だった。マンスは店の外で待ち伏せし、銃で射殺する。次第に彼の行動はエスカレートし、第三の標的にも接触するが、警察の捜査は着実に進みつつある。息子には盗みの疑いがかけられ、警察が家にやって来る。家庭内にも不穏な空気が漂い、ミリは夫の異変に気づき始める。

 ミリは家族を思うマンスの気持ちを理解しようとしながらも、その方法が危険な領域に踏み込んでいることを察する。夫婦の間には緊張と共犯的な空気が交錯する。マンスはなおも再就職の可能性にしがみつき、工場に戻るが、すでにテクノロジーと資本の論理で動いている。彼の孤独な闘いは、個人の問題を超え、時代の変化そのものを映し出していくように映し出されておしまい。


 一人目のボムホ殺害未遂の場面は、本作の中でも特に印象的でした。大音量の音楽が流れる室内で、叫び声と銃声が入り乱れ、床を転がりながら拳銃を奪い合う様子は、緊張感と可笑しみが同居していて思わず笑みがこぼれました。暴力の場面でありながら、どこか滑稽さが漂う演出は、パク・チャヌク監督らしいブラックユーモアの真骨頂だと感じます。

 ただし、その独特のユーモアや社会風刺をすべて受け止めきれたかと言われると、正直なところ難しさも覚えました。ミリのファムファタル的な佇まい、子どもたちとの微妙な距離感、家父長制や資本主義社会への視線など、読み解くべき要素が多く、物語の奥行きは非常に深い。だからこそ、140分という上映時間が体感として長く感じられた部分もあります。

 中年男性の失業という現実的な題材を、ここまで過激な物語へと転化させる大胆さには圧倒されました。家族を守るという大義名分が、いつの間にか暴力と紙一重になる。その危うさをユーモアで包みながら提示する手腕は見事です。観る者の立場によって評価が大きく分かれる作品だと思いますが、現代社会の構造を鋭くえぐる一本であることは間違いない1作だと思いました。

☆☆

鑑賞日:2026/03/08 TOHOシネマズ海老名

監督パク・チャヌク 
脚本パク・チャヌク 
イ・ギョンミ 
ドン・マッケラー 
イ・ジャヘ 
原作ドナルド・E・ウェストレイク 
出演イ・ビョンホン 
ソン・イェジン 
パク・ヒスン 
イ・ソンミン 
ヨム・ヘラン 
チャ・スンウォン 
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