●こんなお話
同じ机を共有した2人の少女が、制服と片想いを通して自分を見つめ直す話。
●感想
1990年代後半の台北。小愛は、母親の強い勧めで名門の第一女子高校の夜間部へ入学する。昼間は全日制クラスが使う教室を、夜には夜間部が引き継ぐ。机も椅子も同じままで、彼女は自然と昼の生徒が残した痕跡に目を向けるようになる。
そこで出会うのが、成績優秀で明るい全日制の生徒・敏敏だった。2人は同じ机を共有する“机友(きゆう)”として、少しずつ言葉を交わすようになる。
同じ制服を着ていても、胸元の刺繍の色が昼と夜の違いをはっきりと示される。小愛はその“色の差”に引け目を感じながらも、敏敏に誘われて制服を交換し、放課後の街を一緒に歩くようになる。
夜の台北の街を歩くとき、二人の間には確かな親しさが生まれていく。だが、その関係に微かなずれが生じるのは、男子校の路克の存在をきっかけにしてだった。
小愛も敏敏も、いつの間にか路克に惹かれていることに気づく。友情の延長線上に、恋の感情が忍び込む。制服の色以上に、二人の間に見えない境界線を引いていってしまう。
路克に卓球を教えるうちに距離を縮める小愛。その様子を見て敏敏は苛立ちを隠せない。そんなある日、路克の知り合いに夜間部の生徒であることをからかわれ、小愛の中で何かが爆発する。さらに母親の厳しい教育への反発も重なり、彼女は“自分とは何か”を問わざるを得なくなる。
英語が得意なレンタルビデオ店の店員に頼んで、憧れのニコール・キッドマン宛てに手紙を送るが、それが思いもよらぬ形で返ってくる。その出来事が、小愛の中の繊細な心を少しずつ変えていくが、そこでも傷つくことに。
そして1999年の台北大地震。夜空を裂くような揺れの中で、それまで積み重ねてきた関係も、心のバランスも揺さぶられる。昼と夜、学歴と身分、母と娘、そして友と片思いの相手。さまざまな“境界”が一度に崩れ落ちる。
小愛は自分の居場所を見つめ直し、試験勉強を頑張り。試験会場で再び路克と再会し、彼女の中にはもう、制服の刺繍の色を気にする自分ではなくなっていく。敏敏との関係にも静かな和解が訪れ、かつての“机友”は、それぞれの未来へと歩き出していこうとしておしまい。
モンタージュを多用した時間経過の表現が鮮やかで、物語のテンポに緩急がありました。淡々と進む中で、登場人物たちの感情の機微が細やかに積み重ねられていき、観ていて退屈する瞬間がありませんでした。
昼と夜の学校という対比を、そのまま主人公の心の葛藤や階層の壁に重ね合わせる演出も巧みで、物語に深みを与えています。制服という単なる衣装が、社会の象徴として機能していたのが印象的でした。
また、当時の台湾の教育の厳しさや、家庭における“成功”“失敗”の価値観がリアルに描かれており、青春映画でありながら社会の息づかいも感じられます。
ただ、個人的には終盤の展開はややあっさりとした印象で、もう少し余韻を見せてもよかったように思いますが、過剰に語らないことで、余白が生まれているとも感じました。
登場人物たちが抱える不安や憧れ、嫉妬や友情といった感情が、台北の夜風の中に静かに漂うような作品で、見終えたあともその余韻が長く残りました。
☆☆☆☆
鑑賞日:2025/10/31 新宿武蔵野館
| 監督 | ジュアン・ジンシェン |
|---|---|
| 脚本 | シュー・フイファン |
| ワン・リーウェン |
| 出演 | チェン・イェンフェイ |
|---|---|
| シャン・ジエルー | |
| チウ・イータイ | |
| チャールズ・トゥ | |
| リン・スーティン |

