映画【本日公休】感想(ネタバレ):台湾の理髪店から描く母と家族

Day Off
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●こんなお話

 長年、地元で理容室をやっている母親と子どもたちの生活の話。

●感想

 台湾の台中にある下町で、アールイという女性が四十年以上にわたり、昔ながらの小さな理髪店を一人で切り盛りしている。若くして夫を亡くしたアールイは、生活のために店を守り続けながら三人の子どもを育て上げ、今も毎朝変わらぬ手つきでハサミを握っている。卒業式を迎える学生、流行の髪型を真似したい中学生、亡き妻の話をしながら白髪染めに来る老人など、店には地域に根付いた常連客が集い、アールイは一人ひとりと短い会話を交わしながら丁寧に髪を切っている。

 長女のシンは台北でスタイリストとして働き、次女のリンも街の美容室で美容師として生計を立てているが、二人は母の理髪店を古いやり方だと感じており、積極的に関わろうとしない。長男のナンは定職に就かず、一攫千金を夢見て落ち着かない日々を送っている。家族はそれぞれの生活に追われ、アールイとゆっくり言葉を交わす時間は減っていた。そんな中で、次女の元夫である自動車修理工のチュアンだけは、血のつながりがないにもかかわらず、今もアールイを気遣い、折に触れて店を訪れている。

 ある日、アールイは長年通い続けてくれた常連客の“先生”が遠方で病に伏していると知らされる。電話を切ったアールイは迷うことなく店の扉に「本日公休」の札を掛け、いつもは休まない理髪店を閉める。誰にも行き先を告げないまま、古い車に乗り込み、その常連客のもとへ向かう。

 突然店が休みになったことに気づいた子どもたちは、母と連絡が取れないことに不安を覚え、それぞれの場所で母の身を案じる。スマートフォンは家に置かれたままで、アールイの意図は伝わらず、子どもたちは母の行動を理解できないまま時間を過ごす。

 一方アールイは、山間部や郊外の道を進みながら、道中で出会う人々と短い言葉を交わし、変わり続ける風景と向き合っていく。やがて病床にある“先生”の自宅にたどり着いたアールイは、弱った身体を気遣いながら、これまでと変わらぬ手つきで髪を切る。アールイは先生がいかに子どもたちのことを話していたのかを語る。

  アールイが一日を通して人と向き合い、自分の仕事と生き方を貫く姿を見せる中で、家族それぞれもまた母の存在を思い返す。特別な事件が起こることはなく、アールイは再び店に戻り、いつものように常連客の髪を切り続けていっておしまい。


 母と子どもたちの関係性、そして台湾の都会と田舎の風景が丁寧に映し出されており、それらを眺めているだけでも心が穏やかになる作品でした。台中の下町や郊外の道、車窓から見える景色には作り物めいた誇張がなく、日常の延長として自然に受け取れる心地よさがあります。

 血のつながった子どもたちよりも、別れた義理の息子であるチュアンが最もアールイを気遣っているという関係性も印象的でした。形式的な家族よりも、長い時間の中で築かれた信頼が人を支えるという描写は、小津安二郎作品を思わせるような静かな温度を感じさせます。

 また、理髪店に集う常連客たちの何気ない会話がとても心地よく、台湾という文化的には馴染みの薄い場所でありながら、不思議と「知っている世界」として受け取れる感覚がありました。髪を切るという行為を通じて、人が集い、言葉を交わす場の尊さが自然に伝わってきます。

 一方で、大きな事件や劇的な転換がほとんど起こらないため、正直なところ退屈さを覚える瞬間があったのも事実です。ただ、その静けさこそが本作の持ち味であり、日常の積み重ねそのものに目を向けさせる構成だったとも受け取れました。派手さはないものの、観る側の心の速度を少し落としてくれる、そんな一本だったように思います。

☆☆☆

鑑賞日:2026/02/09 WOWOW

監督フー・ティエンユー 
脚本フー・ティエンユー 
出演ルー・シャオフェン 
フー・モンボー 
アニー・チェン 
ファン・ジーヨウ 
シー・ミンシュアイ 
チェン・ボーリン 
リン・ボーホン 
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